第12話 肉まんの奇跡と、誰かの視線
「……手がかりは、ありませんでした」
ギルドの受付嬢が申し訳なさそうに頭を下げた。
ヒカルの家族を調べても、近くの町や村にも届け出はない。
レオンはヒカルを見つめた。
「ヒカル。家族はこれから一緒に探そう。」
「ほんとう?」
「ああ。次の町にも行って、手がかりを探そう。」
ヒカルは安心したように笑った。
「うん!」
イグニスが胸を張る。
「決まりだ! 三人旅の始まりだな!」
「お前が一番うれしそうだな。」
「当然だ!」
イグニスは満面の笑みで拳を握った。
「次の町には、美味いものがある!」
「そこかよ!」
「旅とは食との出会いだ!」
「まあ、否定はしない。」
こうして三人は港町へ向けて歩き始めた。
* * *
昼頃。
街道沿いの川辺で休憩することにした。
「お腹すいたぁ。」
ヒカルがお腹を押さえる。
「よし。」
レオンは荷物から小麦粉と肉を取り出した。
「今日は特別だ。肉まんを作る。」
「にくまん?」
ヒカルが首をかしげる。
イグニスも腕を組む。
「肉を焼くのか?」
「違う。包む。」
「包む?」
「見てろ。」
レオンは肉を細かく刻り、香辛料を混ぜる。
生地を丸く伸ばし、肉を包み、蒸し器へ並べた。
湯気が立ち始めると、肉の香りがふわっと広がる。
イグニスは蒸し器の前から動かない。
「まだか?」
「まだ。」
「今できた。」
「できてない。」
「匂いが完成してる。」
「匂いだけな。」
ヒカルが笑った。
「イグニスお兄ちゃん、おもしろい。」
「俺は真剣だ!」
数分後。
レオンがふたを開けた。
白くふっくら膨らんだ肉まんが並んでいる。
「できた。」
「おおおおっ!」
イグニスの目が輝いた。
「熱いから、ふーってして食べるんだぞ。」
ヒカルは小さく息を吹きかける。
ぱくっ。
「……!」
目がまん丸になった。
「ふわふわ!」
中から肉汁がじゅわっとあふれる。
「おいしい!」
イグニスも勢いよくかぶりついた。
「――ッ!?」
動きが止まる。
肉汁が口いっぱいに広がり、生地の甘みが追いかける。
「レオン。」
「なんだ?」
「これを考えた人間は天才だ。」
「褒めすぎだ。」
「いや、足りん!」
イグニスは二口、三口と食べ進める。
「焼いてない肉が、こんなに美味いとは……!」
ヒカルも頬いっぱいに肉まんを詰めて笑う。
「ほっぺ、おちそう!」
その笑顔を見ていると、レオンまでうれしくなった。
自分も一つ手に取り、かぶりつく。
「……うん。」
異世界で食べる肉まんは、どこか日本で作っていた頃より美味しく感じた。
イグニスとヒカルが夢中で食べる姿を見ていると、自然と笑みがこぼれる。
「レオン! もう一個!」
「ぼくも!」
「ちゃんとあるよ。」
三人は笑いながら肉まんを頬張った。
その時だった。
イグニスが急に食べる手を止めた。
黄金の瞳が森の奥を向く。
「……レオン。」
「どうした?」
「変な視線を感じる。」
レオンが辺りを見回す。
風が木々を揺らすだけで、人影は見えない。
するとヒカルも、小さな声でつぶやいた。
「……ぼくも。」
さっきまで笑っていた顔が少しだけ曇る。
「誰かが、見てる。」
その言葉に、レオンの表情が変わった。
川辺には、自分たちしかいないはずだった。
それでも――。
森の奥で、何かが枝を踏む音がした。
パキッ。
三人は同時に音のした方を見つめた。
しかし、そこには誰の姿もなかった。
ただ、木の幹に残る黒い爪痕だけが、不気味に残されていた。




