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第11話 新しい仲間が来た! 竜王と料理人と謎の子供で大騒ぎ!

「レオン! ヒカルが俺の肉を食べたぞ!」

朝っぱらから、宿屋にイグニスの叫び声が響き渡った。

「うるさい! 朝から何を騒いでるんだ!」

レオンが寝ぼけ眼で食堂に降りてくると、テーブルの上では大事件が起きていた。

イグニスの皿にあった焼き肉が、一枚消えている。

その隣で、ヒカルがもぐもぐと口を動かしていた。

「……ヒカル?」

「おいしかった!」

「そうかそうか。おいしかったか」

レオンは笑顔でうなずいた。

「って、俺の肉だぞ! 竜王の朝食だぞ!」

「子供に一枚くらいあげなよ」

「一枚ではない! 二枚目を狙っている!」

見ると、ヒカルの小さな手が、イグニスの皿に伸びていた。

「だめだ、ヒカル! それは俺の肉だ!」

「おにく!」

「そうだ、肉だ! だから俺の――」

ぱくっ。

三枚目が消えた。

「ぬおおおおおっ!」

宿屋の客たちが一斉に振り返る。

レオンは額を押さえた。

「……この竜、子供と肉の取り合いしてる」

「竜王の尊厳に関わる問題だ!」

「尊厳より、朝から大声出すな!」

その騒ぎの中、ヒカルはイグニスを見上げた。

「お兄ちゃん、もっと食べたい?」

「……うむ?」

「ぼくのも、あげる」

ヒカルは自分の小さなパンを半分に割り、イグニスに差し出した。

イグニスは固まった。

「……俺に?」

「うん!」

数秒後。

イグニスはパンを受け取り、咳払いした。

「ふ、ふむ。子供にしては殊勝な心がけだ。特別に受け取ってやろう」

「お前、今ちょっと感動しただろ」

「していない!」

「耳、赤いぞ」

「赤くない!」

レオンは笑いながら、ヒカルのために温かいスープを用意した。

野菜を細かく刻み、柔らかく煮込んで、少しだけ肉のうま味を加える。

「はい、ヒカル。熱いから気をつけてな」

「ありがとう!」

ヒカルがスープをひと口飲む。

その瞬間、瞳の奥に淡い光が揺らめいた。

ほんの一瞬。

レオンは気づいたが、ヒカルが笑顔でおかわりを求めたため、深く考える暇がなかった。

「おかわり!」

「早いな! ゆっくり食べなさい」

「ぼく、いっぱい食べる!」

「いいことだ! 肉も食べろ!」

「野菜も食べろ!」

「肉が先だ!」

「お前は黙ってろ!」

朝食は、今日も平和に騒がしかった。

……いや、平和というには少々うるさすぎた。

* * *

食事を終えた三人は、冒険者ギルドへ向かった。

レオンは、ヒカルを今後どうするか相談するつもりだった。

「身元を確認して、家族がいるなら探してもらおう。見つからなければ、保護してくれる人を探さないとな」

「俺が育てる!」

イグニスが堂々と宣言した。

レオンは足を止めた。

「……お前が?」

「そうだ。俺は偉大なる竜王。子供一人くらい、どうということはない!」

「昨日、肉を焦がして火事寸前にした人が何を言ってるんだ」

「料理と子育ては別だ!」

「その前に、子供に何を食べさせるつもりだ?」

「肉!」

「却下!」

ヒカルが二人の間から顔を出した。

「イグニスお兄ちゃん、ぼくに火を吹いてくれる?」

「おう! 見せてやろう!」

「やめろおおおおおっ!」

レオンは慌ててイグニスの口をふさいだ。

「町中で火を吹くな! お前はドラゴンだってバレたいのか!」

「むぐぐぐっ!」

ヒカルは目を輝かせた。

「すごい! イグニスお兄ちゃん、火が出るの?」

「出ない! 今のは比喩だ!」

レオンが即座に答えた。

「ひゆ?」

「……あとで教える」

ギルドに着くと、受付嬢が三人を見て首をかしげた。

「レオンさん。その子は?」

「森で見つけたんです。親らしい人もいなくて……」

受付嬢の表情が真剣になった。

「そうですか。では、町の保護担当に連絡しますね。身元が分かるまで、ギルドでもできる限り協力します」

「ありがとうございます」

レオンが頭を下げる横で、イグニスはヒカルを肩車していた。

「見ろ、ヒカル! 町の景色がよく見えるだろう!」

「たかーい!」

「はっはっは! これが竜王の高さだ!」

「イグニスさん、建物の看板に頭をぶつけないでくださいね」

受付嬢が冷静に注意する。

次の瞬間。

ゴンッ!

「ぬおっ!?」

「ぶつかった……」

レオンは天井を仰いだ。

「……もう帰りたい」

* * *

昼過ぎ。

町の広場で、ヒカルは露店の前に立ち止まった。

甘い焼き菓子の匂いが漂っている。

「レオン、あれなあに?」

「焼き菓子だよ。甘くておいしいぞ」

「食べたい!」

レオンが財布を確認しようとした、その瞬間。

「任せろ!」

イグニスが胸を張った。

「店主! その菓子をすべて寄こせ!」

「お客様、代金をお願いします」

「何? 俺は偉大なる――」

「お金がないなら買えませんよ」

店主の一言で、イグニスは沈黙した。

レオンは額を押さえた。

「お前、昨日稼いだ金はどうした?」

「肉串を買った」

「全部?」

「……三本残っている」

「それはお金じゃなくて肉串だろ!」

ヒカルが二人を見上げる。

「ぼく、がまんするよ」

その言葉に、レオンはすぐ財布を開いた。

「いや、我慢しなくていい。今日は特別だ」

焼き菓子を一つ買って、ヒカルに渡す。

ヒカルは両手で受け取ると、満面の笑みを浮かべた。

「ありがとう、レオン!」

「どういたしまして」

そしてヒカルは、焼き菓子を半分に割った。

「イグニスお兄ちゃんも、半分こ!」

イグニスは目を見開いた。

「……俺にも?」

「うん!」

イグニスは焼き菓子を受け取ると、妙に真剣な顔でひと口かじった。

「……甘い」

「おいしい?」

「ふむ。悪くない」

「素直においしいって言えばいいだろ」

「うるさい、料理人!」

ヒカルは二人を見て、声を上げて笑った。

その笑い声を聞きながら、レオンは思った。

この子には、安心して笑える場所が必要だ。

そして今は、その場所を作ることが自分にできることなのかもしれない。

「よし。今日は宿に戻って、みんなで夕飯を作ろう」

「肉だな!」

「野菜もだ!」

「おにくと、おやさい!」

「よし、決まりだ!」

「お前が決めるな!」

三人の声が、広場に響き渡った。

そのとき、ヒカルの瞳に再び不思議な光が浮かんだ。

今度は、ほんの少しだけ強く。

通りの向こうにいた黒いローブの人物が、その光を見逃さなかった。

「やはり……あの瞳か」

その手の中で、黒い欠片がかすかに震える。

「見つけたぞ。光の子……」

三人の笑い声は、まだその不穏な気配に気づいていなかった。

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