第八話 黄金の血脈と暗黒の血脈
「ささ、私の宿はこちらです。ユーダイ様」
街の観光を楽しんでいるとあっという間に俺たちは宿に辿り着いた。
日本の基準で言えば貧相な外観だったが、良く言えば味のあるレンガ調の建物が目の前に聳える。
中はソファやクッション、コーヒーテーブルなどで溢れていた。丁度今もコーヒーテーブルを囲んで数人が談笑を楽しんでいる。少しごちゃごちゃしているが、生活感があって温かい雰囲気だ。
「すみません。二百十一のラミアです。鍵を頂けますか?」
ラミアは受付から部屋の鍵を受け取り慣れた様子で隅の階段を上がっていく。
俺も受付のおじさんを横目にしながら階段を上がった。
二階に上がると突き当たりに窓が見えて、両脇には四つずつ扉が並んでいた。ラミアは左手の手前から二番目の部屋に入った。
「えっと、それで俺の部屋は何処になるんだ?」
「勿論、この部屋です。部屋を分けてしまうと、警護に支障が出ますから。私は床で寝ますのでユーダイ様はベッドをお使いください」
「いや、それはまずいだろ……」
部屋の中には恐ろしいほど何も無く、ベッドも整っていて使われた様子が見られなかった。
「かしこまりました。それでは、私は窓の外から警護させていただきます」
「もっとダメだろ。分かった。もう同じ部屋でいいから、それより聞きたいことがあるんだけど」
「はい。何でしょうか?」
ラミアは俺の荷物をそっと床に置き、小首を傾げた。
「この街の偉い奴ってどんな奴なんだ? そいつに会ったとして、どうして俺が殺されちまうんだ?」
「……まず、この街。シュミッツェルの領主はグラディウス・アハト・パースという男です。彼は黄金の盟主の末席であり、術者としては、盟主とは信じ難いほどの二流と聞きます。とはいえ、街の活気を見て分かる通り領主としては優秀のようで、領邦君主の中でも最大の軍団を有しております。加えて野心が強く、特に本間 和大と黄金の盟主が筆頭、グラディウス・アインス・コルネリアを失墜させようと画策しているそうです。貴方様がパースに捕まってしまえば攻撃材料にされてしまいかねない。最悪の場合、殺されてもおかしく無いのです」
「はあ、政争って奴か。にしても領邦君主って? 人間の国に王様はいないのか? 魔族には魔王がいたんだろ?」
ラミアは目を伏せて、ゆっくりと頷いた。
「魔王様は龍神様のご息女であり、半神半人であり、魔族を生み出した、私達にとっての造物主なのです。そして、それに仕える貴族が暗黒の血脈と呼ばれます。対して、黄金の血脈が戴くのは龍神様のご子息である剣神。ただし、剣神は龍神様に酷く嫌われていたそうです。その為なのか、地上に降臨すらできないらしく、人間達の社会に王はおりません。その代わり、黄金の血脈に連なる八人の盟主が八つの地を治めています」
「なるほど、それで領邦君主って訳か。……にしても、その半神半人を俺の親父が倒したのか? 剣士とは聞いてたけど」
「はい、本間 和大は剣神から力を借り受けていると聞き及んでおります。何でも、思うだけで相手を斬り伏せるとか。そこからついた異名が剣聖」
俺は話を聞きながら、立ちっぱなしもどうかと思いベッドに腰をかけた。すると、ラミアはピッチャーからコップに水を注いでベッドの脇のサイドテーブルに置く。
強いんだろうとは薄々思っていたけど、親父を一発殴るには俺もかなり強くなるか、或いは作戦を立てないといけないみたいだ。いずれにしても、まずは居処を探るところから、だな。
「ふわぁあ」
それにしても眠いな。異界渡りで殆ど魔力を使い果たした影響か、落ち着いてみると急に瞼が重くなってきた。
「疲れてらっしゃるのなら、少し寝てはいかがです? 警護は私がきっちり果たしてみせますので」
「ふわあ。別に警護はいらないと思うけどな。まあ、そう言ってくれるならお言葉に甘えるよ。おやすみ」
俺はそのままベッドに寝そべり、目を閉じる。
異界にやってきていきなり色々あったけど、まあ何とかなりそうでよかった。ひとまずベッドを用意してくれていたラミアに心の中で感謝して眠りに落ちた。




