第二十四話 継承
「ユーダイ様。はしたない」
「ラミアに、怒られちゃった。でへへ」
咀嚼すると肉の旨みと香辛料の味が、ピッタリとあって、美味しかった。
厨房のそばには食堂があり、長机と二十個ほど椅子が整列していた。さらにその隣の部屋は書庫になっていた。
キントスさんは本を読むタイプには見えなかったから、俺は興味本位で本を一冊手に取ってみる。案の定というか内容は剣術についてだった。他にもいくつか手に取るが、全て剣術書だ。俺は少しムキになって、剣術書以外の本を探そうと本棚を漁る。
家探しに没頭していると、不意にヒンヤリした空気の揺らぎが俺の体を震わせた。
「ラミア、今の感覚」
「……私も感じました。どうやらそこの本棚の裏に空間があるようですね」
その本棚には特に重厚な本がぎっしりと並べられていた。かなり長いこと誰も読んでいないのか、分厚い埃が溜まっている。恐らく、重石の代わりなんだろう。
「ちょっと気になるな。調べてみるか」
伺うようにラミアを一瞥すると、蛇はコクリと頭を縦に振った。どうやらラミアも好奇心に負けてしまったらしい。
俺はなんとか本棚と壁の間に指を捩じ込んで、力一杯に引く。しかし、重石のせいなのかびくともしない。
「ダメだ。全然動きやしない」
「ユーダイ様。身体強化の術はお使いにならないのですか?」
「身体強化?」
俺は聞き覚えのない術名をおうむ返しした。
「術といっても、そう難しいものではない、と。かつてのユーダイ様が仰っていました。なんでも龍脈から地力を吸い上げて身体能力を向上させる術だとか」
「地力を吸い上げる、そんなことが出来んのか」
俺は半信半疑で、意識を龍脈に集中させてみた。転移術を使う時と同じ要領だ。地下を流れる地力が俺の右足に吸い上げられ、腰に上り手、肩、頭と昇る。その後、もう片方の半身を下っていき、龍脈に還る。
「流石でございますね。もう出来ていらっしゃいます」
「確かに、今ままで感じた事のない全能感だ」
俺は呟き。もう一度本棚に手をかけた。息を止めて、上半身を後ろに傾けて引く。すると、ズズズ。と本棚が動き始め、なんとか通り抜けられるくらいの隙間ができた。奥には飲み込まれそうな闇が続いていて、ヒンヤリした冷気が実体を持ってしまいそうな程、押し固められている。
四面全てが精緻に切り出された石で埋め尽くされた回廊に、一歩踏み入る。その途端、壁に付けられた燭台に青い火が灯った。
「これも術なのか……?」
電気式ならともかく、火が勝手に灯るのは俺の持っている常識では有り得なかった。そういう場合は大抵術絡みだ。
「これなら進めるな」
火が灯って、暖かくなるどころか一層肌寒くなった気がしたけど、俺は進む足を止められなかった。この期に及んでラミアも俺を止めようとはしなかった。
回廊をしばらく進むと地下に進む階段が続いており、それを降ると、そこには祭壇があった。回廊より少し開けた空間に、木製のテーブルがあって、その上に線が細く真っ直ぐの短剣が置かれている。
「これは、武器か?」
「誰だ!?」
その時、俺の背中を鋭い怒声が刺した。俺は思わずびくりと心臓を跳ねさせて背後を振り返った。
「ヴァ、ヴァレオスさん?」
「む、兄様、か。客室にいないからどこにいるかと思えば、こんなところにまで入り込んでいたのか」
「こ、コルネリアさんと話をしていたんじゃないんっすか?」
「ああ、だが話はとっくに終わった。そんなことより、ここで何をしている」
ヴァレオスさんは人の良さそうな顔を厳格に引き締めて問い質す。
「ちょっと、館を探検してて、たまたま本棚の裏に空間を見つけたもんだから……」
「侵入した、か。悪いが、ここはツヴァイの直系のみが入ることが許される秘密の部屋だ。いくら兄様でも見過ごせん。退室願おうか」
「俺はおじさんの兄貴じゃないっすけどね」
俺はバツの悪さを誤魔化そうとして、それから、一矢報いたくて、そんな憎まれ口を聞く。
「……そうだったな。すまない。昔いた俺の兄様に君がそっくりだったもので、つい口が滑った。さ、早く出るぞ」
しかし、ヴァレオスさんは動じることなく、軽く頭を下げ、俺を書庫に引き戻した。男は俺が何とか動かした本棚を軽々と元に戻す。
「あの、さっきの部屋の短剣は……」
「あれは、祭器だ。黄金剣と呼ぶ。盟主の魔力と権能を後継者に移すために使われる短剣だ。とても貴重なものなので、厳重に保管している。この場所の事は決して口外しないように」
ヴァレオスさんは初めて会った時より他人行儀な感じがして、不思議と胸の辺りが苛立った。




