第二話 呪文
「さて、魔術も使えたことだし。もうちょっとだけ、授業をしようか。呪文についてだよ」
俺はコクリと頷いた。
「呪文って言うのはね? 術者自身が編み出していく物なの。昨日雄大に教えたのは汎用呪文って言って、魔術の歴史千年間で色んな人が改良を加えた物と言われてる。汎用魔術より高効率の詠唱文を編み出す事は今となっては砂漠から印を付けた砂粒を見つけ出すようなものなんだ。でも、それは汎用呪文の通りに唱えないと魔術を使えないって事じゃない。例えば、”天蓋・来新・尖槍”」
母ちゃんがそう唱えると、木の幹の皮が突然爆ぜた。
「今のは?」
「汎用の呪文を最低限まで省略したの。修飾格を省いたから威力は落ちるけど、魔力を大量に持っている人なら、これでも十分な威力が出せる」
「修飾格って?」
「そもそも、呪文には主格と修飾格って言うのがあって、主格っていうのは呪文に欠かせない言葉の事。修飾格は主格を飾る全ての言葉の事」
母ちゃんは足元の小枝で、三段に分けて、地面に言葉を書き始めた。ほとんどが俺には読めない難しい漢字ばかりだった。
天蓋・窖・果実
「ここに書いたのが、主格と呼ばれる言葉。上の三つが表すのは術の属性。順に風・土・水」
来新、四象・羅衣、主上・来迎、翼賛
「次の六つはそれぞれに相性の良い繋ぎの言葉」
そう言って、母ちゃんは中段の言葉を指した。
尖槍・澱み・変貌
「最後の三つは術がどんな形を取るかを決める。尖槍は投げ槍みたいな形をとる。澱みはその場に停滞する。逆に変貌は常に形を変え続ける」
「ふうん。……ってことは魔術は三種類しかないって事?」
「そんな事ないよ。術の形と属性はどの組み合わせでも成立するから、術は全部で九種類ね。それから、風・土・水の術を順法と呼ぶのに対して忤法と呼ばれる術もある」
母ちゃんはさらに地面に文字を書き足した。
「自然の営みに忤るから、忤法」
「もとるって?」
「そうねえ。例えば私が雄大におもちゃを片付けてって言ったのに、それをサボって遊んでるような事を忤るって言うの」
「つまり、悪いことって意味?」
母ちゃんは苦笑して「まあ、そんなとこ」と言った。
「忤法で操られるのは炎と雷。主に、魔族が得意とする術で私達エルフや人間族は基本的には使わない」
「そういう術を使うのは悪者って事なんだ」
母ちゃんはさらに苦い顔をして、答えを濁した。
「そうね。ただ、もしどうしても雄大にとって譲れないことがあって、それを守り抜く為に忤法を使わないといけないんだとしたら、使ったって良いと思うよ。私は雄大の事を信じているから」
「ふうん。俺、炎とか雷も使ってみたい」
「そんな軽い気持ちでは使っちゃ駄目だよ。どうしてもって時だけなんだから、いい?」
「はあい」
俺は少しがっかりしつつも、頷いた。魔術を使えたという事実が、まだまだ俺の心を浮かれさせていた。




