災いの前兆ー2
お待たせ!
もっと楽しみたい人は、災いの前兆ー1から見てね!
出発以前、楽しみの中で若干の凝っていた不安である“暇”という存在は、あまり姿を現さなかった。
それは、話すことが溜まっていたのもそうだし周りの自然が移り変わる度に僕の心を癒していたからでもあるだろう。
道中わずかに魔物が襲ってきはしたけれど、どれも指一本魔法の一つも僕と馬車に触れさすことなく3人があっという間に片付けてしまった。
あっという間、と言ってしまえば少し過言な1週間だった。
そして今、目の前には城壁も柵もない村に馬車が入った。
「あいっ到着しましたよ~」
速度を徐々に落として止まる。
止まったと同時に、3人は色んな方向に背筋を伸ばす。
僕は、手を組んで腕が先導するように声を漏らしながら上に伸ばした。
馬も、疲れたといわんばかりに鼻から息を吹く。
それの頭を運転手のおじさんは優しく撫でた。
「ありがとうございました!」
言いながら頭を下げて、荷台から降りる。
「ありがとうございました!」
「あんがとさんっ」
「ありがと」
3人も続くようにそれぞれ感謝の言葉を言いながら降りる。
向こうもそれに笑顔で答えた。
「おうっ紹介状は一番上の村長宅に渡しなよ」
「はい」
僕たちは改めて村を見た。
割と緊急の依頼というのだから、勝手にボロボロなイメージをしていたけれど、そんなこともない───本当に、なんてこともないごく平凡な村だ。
ただ、人通りはこれと言ってない。
まだ朝型というのもあるのかもしれないし、とりあえず進んでみよう。
「いこっか」
「はい」「おう」「ん」
中へ中へと足を進める。
畑。これは……ジャガイモかな。
そういえば、あっちにもジャガイモ畑ってあったっけ。
見回しながらどんどん足を進める。
牧場だ。かなり広いし、これは牛だ。
あっちにも牧場はあったけど、あれは馬だったはず。
あれに比べてもすごく大きいし、飼ってる数もかなり多いな。
やっぱり、田舎の村ってだけで故郷を思い出してしまう。
「なんだか、村見てたら村のこと思い出すね」
「そうですねぇ~」
そう笑顔で返すロゼル。
ガレドは、首を傾げて「そうか?」と呟いていながら辺りを見回す。
少し後ろのルーナに至っては何の興味もなさそうに、自分の魔法杖をくまなく覗いている。
また顔を見上げた。
遠くの左奥に見える棚田の上に見える、ひと際大きい一軒家。
きっとあれが村長宅なはず。
あと少し。
膝が痛いけど、何とか頑張ろう。
◇◇
何はともあれ、到着した。
他のおうちよりも一回り大きいし、そこまできたら三角屋根も壮大に見える。
きっとこの大きさからして、2階もあるんだろう。
庭が広くて隣に倉庫もあるみたいだ。あれはきっと稲とか作物を入れる用かな。
このおうちの隣にももう一軒あるみたいだけど、あれは誰なんだろう。
とにかく、僕は横開きであろうドアを人差し指の第二関節で2回鳴らした。
「すいませーん」
扉の向こうでも、2階にも聞こえるように声を張った。
「異変調査で参った、冒険者ですけどー!」
「はーい今行きますー!」
間を置かずに返事が返った。
木の板が軋む音が何回か鳴った後、扉が横に開いた。
「どうもぉ」
「すいません冒険者のアラトです。ウマント村の村長様でしょうか?」
「そうですよ、若いのにご丁寧にどうも」
おじさんだ。優しそうな顔、きっといい人生を送って来たんだろうな。勝手な想像だけど。
そうだ。紹介状。
僕は口パクでルーナに「(紹介状)」といって、ルーナはすぐに収納から取り出して僕に渡す。それから村長さんに渡した。
「村長のカールです。立ったままはお辛いでしょうし、中までどうぞ」
そう言ってしわの見える左手で中に誘う。
そこの僅かな隙間から覗いた中は、なんというか田舎の所謂なおうちみたいだ。
印象で言えば、すごく広そうだということくらい。
懐かしい気持ちと、少しワクワクする気持ちが入り乱れているみたいだ。
「ささっ」
「「「お邪魔します」」」
部屋に一歩入ると、左からまた年老いた人が現れた。
「どうもぉ、わざわざこんな田舎までありがとうございますぅ」
「いえいえ」
きっと奥さんだ。
僕らは石張りの玄関で靴を脱ぎ、出してくれたスリッパに履き替えて中へと入った。
案内されるまま廊下を渡って、右の部屋に入る。
黒く照る革のソファが向かいに2つずつと、間のシックなローテーブルに置かれたガラスの灰皿、音を鳴らして稼働する置時計、蓄音機だけを置いた小さな台。
これは……僕たち、というか僕なんかを招待するような部屋じゃない気がする。
貴族の人とかを呼ぶところに見えるけど、大丈夫なんだろうか。
「どうぞお座りください」
「は、はい」
ガレドは奥のソファに遠慮なく座って僕はその横、ルーナとロゼルは手前のソファに座った。
沈み込むような座り心地、たとえここで眠ったとしたら実家のベッドよりもよく眠れそう。
そして、何となく話が始まる空気が出来上がった。
「改めまして、村長のワドです」
「妻のベアです」
2人とも深くお辞儀をする。
腰の低い人たちだ。
「僕はアラトです。こっちがガレドで、ルーナ、ロゼルです」
それぞれを手で指しながら名前を教えた。
僕以外、ここにもう馴染んだのかそもそも気にしていないのか緊張がまるで見えない。
昔から、肝っ玉が座っているというかなんというか。
まあ、そんなことどうでもいいか。
そうだ。
ポケットをまさぐる。
ない。
こんな姿、あまり見せれたものじゃないんだけど。
紹介状……そういえば、ルーナの収納魔法にしまったんだった。
「るーな、収納魔法から紹介状出してくれる?」
「ん。でも空間収納」
「わかったから、お願い」
少しむくれたような顔で、綺麗な1枚の紙を取り出し、村長に渡した。
「はいどうも。確認しますね」
そう言いながら、眼鏡をおでこにずらして書かれる文字に目を沿えていく。
わかりやすく、「うん」と相槌。
「あぁ、ハンデルベルクからお越しで。遠いところありがとうございます」
「いえ、こちらこそ」
そしてしばらく目を通した後、僕たちに向き直った。
「はぁいっ、確認しました。臨時パーティーの方ですね」
笑顔をしているけれど、やっぱり不安みたいだ。
伯爵領の冒険者ではないし、それに臨時のパーティーだからだろう。
「はい、昔馴染みでして」
「あぁそうでしたか」
少しだけ和らいだ。
そしてベアさんは邪魔しないよう静かに部屋を去った。
扉も優しく閉まる。
「それで、異変調査のこと詳しく教えてくださいますか?」
「えぇもちろんです」
───ワドさんの話を一旦頭でまとめよう。
たしか、最近隣の山・ウマント山の様子が妙で異変調査の依頼を出したと。
そこは昔から危険な魔物は多いけど山菜は豊富だし、シカやリス、イノシシの野生動物も豊富だった。
でも、何故か三カ月前からそれがめっきり減っていると。村長になってから今までそんなことはといっても危ないからワドさんたちで調査に行くわけにもいかないから依頼して今に至る。っていう感じかな。
「なるほど……それは大変でしたね」
「はい。ただまあ、うちは牧畜もしてますし畑も盛んですのである程度は大丈夫なんですけどね」
「そうですか」
「なにぶん田舎なもんで、皆暇なんですよ。ハッハハハ!」
どこが笑いどころか全くわからなかった。
みんなもポカンとしている。
「いやあ、キノコが恋しいですなあ」
ガラスのグラスに入ったお茶を飲み、独り言のようにそう言った。
その目からは、本当につらいということがすぐに伝わってくる。
ここまでよくしてくれたいい人たちが困ってるんだ。
僕が今やることは決まってる。
この人たちが安心できるように、自信をもって言葉にする。
「安心してください!僕たちが原因を突き止めて、来月には美味しいキノコとタケノコが食べれるよう解決して見せます!」
そして、その言葉を必ずやり遂げることだ。
大きく目を見開いて、ソファから立ち上がった僕を見つめている。
「……いやあ、すごく頼もしい。ほんとうに……」
萎れた瞳の奥から、僅かに雫が上がってきた。それを拭うワドさん。
「では、任せますよ」
「はい!」
「あっあとパンツの上見えちゃってますよ」
「ひゃっひゃい!」
出来たら、もっと遠回しに言って欲しかったな……
続く……




