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白猫の功名ー〆

ことわざっぽい所からのやつの最後です!

ちゃんと読みたい人はそっちからお願いします!

 隣、詳しくは外の隣から声が聞こえる。


「ルーナ様、ディナーの準備が整いました」


 気持ちよくて長湯してしまったせいかもう晩御飯、いやディナー。

 アメニティにあった服と下着に着替えて、外へ出る。


 見た目は置いておいて、汗臭い服で行くよりもましなはず。

 ご飯時に匂いなんかしたら、失礼とかじゃないしね。


「あら、お着替えになったのねアラト……さん」


 マリアちゃんがため口……


「ごめんなさい、敬語の方がよかったかしら?」

「いや、うれしいよマリアちゃん」

「あらっうふふっ」


 口を抑えて笑ってる。

 つられて僕も頬が上がる。


 3人、メイドさんの後ろをついていって……


 そのままエレベーターを乗って1階。


 着いた先、大きな扉を開けた先───


「おお、来たか」


 果てしなく長いテーブル、その先に2人の男女が座っている。


「あら、貴方達がミィを見つけてくださったの?」

 大きな髪の団子を携えた女性が、僕たちをみてそういった。

上品な声、微かに微笑んている紅色の唇。


そして、薬指についたヨハン様とお揃いの指輪。

一目見ただけで、誰か頭が理解した。


「お、お初にお目にかかります!アラトと申します!」

「あらあら、そんなに緊張しなくてもいいのよ。さっ座って」


 向かいの席へ手を差し出す。


「イリーナは君たちと話たがっていてな。家族団らんに付き合ってくれ」


 メイドさんがそこへと歩いて行って、2つの椅子を引いた。


 為されるままに座る。


 元からいたのか、ハルさんがイリーナ様の横に座るようその席を引く。

 向日葵のような笑顔でキレイに座った。


 波のように現れた執事たちによって、次々と並べられる料理たち。


 気づいたら、首元にナプキンが掛けられていた。

 ホントにいつの間に……


 左にはヨハン様、正面はイリーナ様。

 せっかくの料理なのに、味わかるかな。


 無慈悲にもお腹が鳴る。


「ささっ食べながら、お話聞かせてくれるかしら?」

 両手を合わせて首をかしげる。


 食事をする一つの所作、語りかえるような優しい声、彫刻のように整った顔立ち。

 お美しいという言葉は、きっとの人のために生まれたんだろう。


「は、はいもちろんです!」

 僕の手は微かに震えている。


 そのまま、目の前のステーキをナイフで切ってフォークで口に運ぶ。


 下に広がる突き刺すような旨味、沁み込むような肉汁。

 鼻を抜ける香りは、爽やかなフルーティーを持っていて……


 美味しいなんて言葉で片付けられない程、完璧な味。


「あら、おいしいでしょう?」

 僕の顔を見て笑っている。


「はい、すごくっ」


 横のルーナがすごい速度で食べ進めている。

 しかし、それでもまだまだ盛られている料理たち。


「ところで、2人は幼馴染なんですって?」

「はい」「ん」


 見事なまでに重なった声が、広いこの部屋に響く。


「歳はいくつなの?」

「僕が15で、ルーナが16です」

「あら、ルーナちゃんが1個上なのね」

「アラトが3月生まれ、だから同級生」


 そういえば、この街に来た頃は14歳だったっけ。

 もう1年……全くそんな気がしない。

 ずっと何かに追われてるようで、時間なんて気にする暇がなかったし。


「若いのねぇ……なら、テールと同級生ね」

「そうなるな」


「テー…ル?」


 名前からして男の人……誰だろう。


「テールお兄様は、ハンデルベルク家の次男で私のお兄様なの。今は学園で暮らされてるのだけれど……」

 顔が少し曇る。


「?」

「それが、去年まで毎月手紙を欠かさなかったのだが今年に入ってから1通もないのだ」


……学園。同い年くらいだから、きっと高等部なはず。

 そういえば、どこの学園に通ってるんだろう。

 この街にもたしかあったはず。東区の方だっけ。


「そういえば、2人は学校に行かれてたのよね?」

「はい。中学まで行ってました」

「アラト、勉強すごくできる」


 まるで僕をたてるかのようにいったルーナ。

 その目は、どこにも迷いは感じられない。


「あら、すごいのねアラトさん」

「いやいやいや!田舎の学校ですし僕なんて全然!」

「あらあら、フフフ」


 これはもしかして、からかわれてるのか。

 どうすればいいんだ……


 食べながら頭を必死に回す。


「本当にお二方は仲がいいのね」

 小さく肩を揺らす。


 そうだ。きっとこの人には敵わないんだ。



◇◇



 はじめは肩に力こそ入っていたディナーだったけど……時間が経つにつれ、皆さんの包み込むような温かい空気に触れるにつれてそれも次第に和らいでいった。

 もちろん、料理がすごくおいしいからこそのことなんだろう。


 そんな時間も終わりを迎える。


「ふう。今日もおいしかったわ」

 近くの執事に向かって言葉を告げたイリーナ様。


 僕はソースのついた口をナプキンで拭う。


 横を見る。口周りに1滴たりとてついていないルーナ。

 やっぱり器用なんだな。


 僕は背筋を伸ばして、深く深呼吸。


「あの、今日はご馳走様でした!すごくおいしかったです」


 態度に出ていたとしても。相手にもうわかられていたとしても。

 言葉が言えるなら、きちんとそうしないと。


 胸は来た当初のように高鳴っている。


「私も。おいしかった」


 球を抜かれたように僕らを見る3人。


「「「ぷふっ」」」


 抑えられないかのように口から息を出し、そのまま笑い始めた。


「え?えと……」


 辺りを見回す。

 従者の皆さんも、僕を見て微笑んでいるみたいだ。


 僕の顔は涼しいこの部屋でのぼせるわけもないのに、風呂上りかのように火照っている。

 痒みはないけど頬を掻く。


「アラト君、って呼んでいいかしら?」

 ぬくもりのある眼光。

 肩の力が自然と抜け落ちる。


「はい、もちろんです」

「ホントに、何て言えばいいのかしら。すごく……可愛らしいわね」

「え?」


 素っ頓狂な声をあげてしまった。


「貴方が子供だったらって考えてしまうくらいよ」

「そうだな。君さえよかったら、我がハンデルベルク家の養子にならないか?」


 きっとこれはからかっているんだろう。


 仕方ない。こんな豪邸を見せられたんだ。わかっていても想像してしまう。

 もし、僕がこの家で生まれていたら。

 もし、これに頷いたなら。


 頭に浮かんだ景色はきっと、すべて叶ってしまうだろう。


 でも───


 僕は、固唾を飲んで言葉を紡ぐ。


「すごく、嬉しいですけど……僕にはもう母がいるので」


 僕を見つめる3人の目に、上手く合わせられているだろうか。

 手の汗が止まらない。


「……知ってるさ。そういうこともな」

「もしかしたら、と思ったけれどね。その答え、素敵よ」

「アラトには、アラトの家族がいらっしゃるものね。仕方ないわ」


 貴族様の誘いを断るのが無礼なことくらい、こんな僕でも知ってるのに───


 それでも、僕たちに笑顔を向けてくれる。


「ん。やっぱりアラト」

 誇らしそうに頷くルーナ。


「あはは、なにそれ」

 緊張がすっかり抜けたせいで勝手に笑いが零れ落ちる。


「それで、今夜は一泊するんだろう?」

「はい。お邪魔にならなければですけど」

「ならんとも。むしろ大歓迎だ」


 皿の片付いたテーブルに、組んだ拳を置く。


「なら、ゆっくり休むといい。ミィの捜索に苦労もしただろうからな」

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」


 2人合わせて椅子から立ち上がる。


「ご馳走様でした。お部屋、借りさせていただきます」

「ああ。好きに使ってくれ」


 その言葉を背に、僕たちは部屋へと戻った。



───「案内ありがとうございました」

「いえ、業務の一環ですので。それでは、おやすみなさいませ」

「はい。ありがとうございます」


 扉が閉まる。


「ふう……」


 珍しく走ったせいか、まだ夏に体が慣れていないのか。

 いつになく体が重い。


 時刻は21:15くらい。

もう寝てしまうのもいいかもしれない。


 でも、こんな豪勢な部屋に泊まってるんだ。

 もう少し堪能したい気持ちも……


 ベッドへと体を預ける。

 包み込むような柔らかさの中に、しっかりとした反発。


「ああぁ……」

 快感とともに声が抜け出る。


「ん、ん……」


 瞼が重い。

 暗闇が僕を呼んでいるみたいだ。


 抗う。気持ちはまだここにない。


 それに反するよう、身体は薄手の布団に体をねじり込む。


 もう、そんな体力も残っていない。

 そうだ。こんな体の時に堪能する方がもったいないじゃないか。


 きっとこれは、夢に頭を動かされてるだけなんだろう。

 でも、それでもいい。


(早起きすれば……いっか……)


 潮が満ちていくように、視界が暗くなっていく。


 かすかの光。

 わずかに映ったのは、小さく扉が開いて誰かの手が明かりを消す光景。


 頭はそれを、どうでもいいと思ったのか目を瞼で包み込んだ。


 すこしだけ冴える思考。

 でも起きたくはない。


 何かが引っかかる。

 奥歯に挟まった肉片のように、小さな違和感。


 ゆったりとした時間の中、それを取り出した。


(あっ日記書いてない……まあいっか)



◇◇◇



「昨日は本当にありがとうございました」


 翌朝。

 知らぬ間に洗われていた自分の服を着て、エントランスに立っている。


 昨日の疲れは一切なく、今すぐに走り出したいくらい体が軽い。


 大きな額縁を背にハンデルベルクの3人が、横一列で僕たちを見つめている。


「1泊とはいわず、1週間はいてよかったのよ?」

 諭すような声。


「いえいえ!そこまでお邪魔するわけにはいきませんよ!やりたいこともありますし」

「そうよね……若いものね。でも、いつでも来てよくてよ?」

「はい、ありがとうございます」


 マリアちゃんが一歩前に進み、胸に手を置く。

 そして、深く息を吸い───


「アラト!ルーナ!また……会いたいわ!」

 目は微かに潤み、声も少しばかり枯れている。


 そんな彼女が、僕の───僕たちの心の臓に突き刺さった。


 答えなんて、決まってるじゃないか。


「「もちろん」」

「ホント!?約束よ!」

「うん」「ん」


 目を拭って、輝くような笑顔。

 僕も気づかぬうちに笑っていた。


「門前に馬車を用意している。それに乗って、南区まで行くといい。此度の件、本当に感謝する」

「いえいえ!むしろそこまでして頂かなくても……」

「なに、恩返しの一環だ。受け取ってくれ」


 髭の端が口角に合わせて吊り上がっている。

 あった時とはずいぶん違う、まるで巣立ちを見送る親のような瞳。


 僕は天井のシャンデリアを見つめる。


(……ここで断るのも違うのかなあ)


 短く一息を突き、ヨハン様へまっすぐ向く。


「うん、それならありがたく受け取っておきます」

「ああ。それでは、また会おう」

「はい。また」


 もう一度1礼。

 玄関の扉へ振り向いて、そのまま突き進む。


 ルーナが扉に手をかけ、軽々と開いた。


 大きな庭園に燦々と降り注ぐ日光。

 遠くの門前には黒塗りの少しばかり地味な馬車が座っている。

 ハーネスをかけられているのは、見たこともないくらいの筋骨隆々な馬。


 僕らは、それを見つめながら歩いていく。


 その時。


「にゃー」


 上。もっと言えば、後ろ上。

 呼び寄せるような猫の鳴き声が耳に入り込んだ。


 揃って振り返る。


 窓の縁に、四つ足で凛凛と立つ白猫、ミィだ。

 光が毛を反射し、まるで神かといわんばかりに輝いている。


 躊躇なく飛び降りる。


 少しばかりの駆け足で近づき、ルーナの足元に体を擦り付ける。

……ちょっとうらやましい。


 そのままルーナはしゃがみ込む。


「にゃー」

 互いに見つめ合いながら、ミィが鳴いた。


「にゃっ」

 返事をするかのように。


「にゃーう」

「にゃー」


 何を言ってるのかわからないけど、会話が弾んでるみたいだ。

 猫と話せるなんて、ずるい。僕も話したい。


「にゃー」

「……にゃっ」

 少しのためらいを持った鳴き声を上げるルーナ。


 ゆっくりと立ち上がって、いつになく僕を見つめる。

 辺りに漂う静けさ。

 風の音、微かな虫の声。


 ルーナは、杖を握る手を強めながら───


「……にゃー」

 僕に向かって優しく鳴いた。

 夏のせいか、少し赤らんだ頬。


 そしてゆっくりと瞬き。


 つられて僕もしてしまった。


「ん?」

「ふふっ」

 少し下を向きながら、吹きこぼれるように笑う。


「なんでもない」

「そう?じゃあいこっか」


 僕は、そういいながらしゃがみ込んで───


「またねにゃー」

「にゃー」


 ミィに別れを告げる。


 そのまま立ち上がって門に振り向き、横一列に馬車へと向かった。


にゃー(カレーライスはカレーなのに、ハヤシライスはハヤシライスなのおかしい)


再来週にまた出会おう!



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