白猫の功名ー2
ことわざっぽいやつのところから読んだらすっと入るはず!
「お父様!ミィが見つかったわ!」
勢い良く開いた扉の先。
頭は外に慣れた体に冴えわたる清涼感よりも、目の前の光景を優先した。
うちのホテルとは比べ物にならない程広々としたエントランス。
高々とした天井に吊るされているのは、輝きを放つほど豪華なシャンデリア。
目の前に伸び2つに分かれる大きな階段。その壁は写実的な紳士の絵が大っぴらに飾られている。
どれから見ればいいのか、全部が目を奪う。
「そうか、よかったなマリア」
「ええ!」
左奥から現れた、絵画と同じ姿形の男。
整えられた口髭に、見られるだけで見透かされていると感じるほど鋭さのある眼光。
気品漂う服にそれに負けないオーラ。
一目見ただけでわかる。
この人が副首都・ハンデルベルクの領主であり貴族の頂点、
“ヨハン・ハンデルベルク”様だ……
頭がそう理解した瞬間、背筋が勝手に伸びる。
「マリア、その者たちがミィを見つけたのか?」
「ええそうよ!私とミィの恩人よ!」
「ハッハッハッ!それは丁重に扱わないとな」
堂々とした笑い声が、空間に響き渡る。
同時に、肩への力が一層増した。
こういう時どうすればいいんだっけ……
「お、お初にお目にかかります!アラトです!」
勢いよく頭を下げる。
足の指に体が乗る。
勝手に動いたけど、もし間違ってたら……
「頭をあげたまえ、アラトとやら。君は恩人なのだから」
言われた通りに顔を上げる。
遠くにいたはずなのに、気づいたら目の前。
「そちらの淑女は、そなたの伴侶か?」
そう伸びる手の先にはまっすぐヨハン様を睨むに近い目で見つめるルーナ。
「まだ違う」「いえいえ!まだそんな歳でもないですし」
「そうか、それは失礼した。ここではなんだ、客用の部屋がある。そこで話でもどうだね?」
「も、もちろん!」「構わない」
貴族だとか全く気にしてないルーナの口調におびえつつ、僕たちはされるがままついていった。
───4、5分くらい歩いたのか、ヨハン様の足が止まった。
「さ、入りたまえ」
シックな扉が開かれた先。
中央に構えられたローテーブル。見事に研磨され光を跳ね返している黒色の板、白金色の支えにも細かな彩色が練られている。
そしてそれを挟む幾何学模様の2つのソファ。分厚いクッションに滑らかな肌触り。きっとどのベッドよりも心地よく寝れるだろう。
そしてそれらの下に敷かれたラグ。まるで魔法陣のような紋様。
それまでの道も大理石。
一歩一歩踏みしめるように歩いていく。
靴脱いだ方が良いかな。
「遠慮なく座ってくれ。後に執事の者が茶菓子を持ってくるはずだ」
そういい、手本を見せるように座る。
本当に僕なんかが座っていいのかな……
横ではもうルーナが杖を端に立てかけてくつろいでいる。
「し、失礼します……」
手を横に置き、ゆっくりと座る。
尻が触れて、体重を任せていくほど……
「ああ……」
心を奪われていく。
この魅惑の心地に。
(はっ!)
そうだ、気を取り戻すんだ。
少しでも無礼なところを見せたら……きっとこの街で住んでいけない。
日々暮らさせていただいている感謝も込めて、最大限の礼儀を尽くさなくては。
カバンを膝の上に乗せて、まっすぐ前を向く。
「そうだ。荷物も重かろう、避ければこちらで預かるぞ」
ここはなんていうのが正解なんだ。
断るのか、それとも受け入れた方が良いのか。
「なぁに、なにかを盗んだりするわけではない。なにぶん、金はあるのでな」
「もちろん疑ってなどいないです!でも、そういうことなら預けさせていただきます」
そういって、横に立っている執事の方にカバンを渡す。
「私はいい。杖は魔法使いの命。それに、収納の箱も使える」
「そうか。それは失礼した」
執事の人も困った顔してる。
ごめんなさい。
そう心の中で謝った時、扉が鳴った。
「ご主人様、紅茶と茶菓子を持ってまいりました」
「構わん。入れ」
開く。
車輪が回る音とともに出てきたのは、真っ白な車輪付きテーブル。
甘く芳醇な匂いを放つ紅茶と、螺旋状に置かれた皿の上に乗っている色とりどりのお菓子たち。
僕の横にゆっくりと運ばれてると、素早く全てを置き───
「失礼しました」
そのまま去っていった。
僕紅茶なんか飲んだことないけど、大丈夫かな。
ルーナはもう啜ってる。
「あちっ」
熱いらしい。まあ湯気も出てるし。
「……んまい」
お菓子にも手を出している。
やっぱりおいしいのか。
「食べながらで構わないから、君たちの話を聞かせてくれないか?」
「えと……いいんですか?僕たちなんかで」
「“なんか”とはよしたまえよ。仮にもマリアが呼んだお客人であり恩人なのだから」
「す、すみません……」
「いやいや、気にしなくていい。怒っているわけでもあるまいし」
僕をほぐすように笑いかけるヨハン様。
もしかしたら、気さくな方なのかもしれない。
「それに、貴族になると皆同じような話ばかりするのでな。たまにはそれ以外のことも耳にしたいのだよ」
「な、なるほど……」
ここまで優しくしてくれてるんだ。
僕も、少しルーナを見習って肩の力を抜かないと。
「……あちっ」
あまり見習いすぎるのもよくないか。
───そこからどれくらいだろう。
紅茶もお菓子もお話も、おかわりが来てしまうくらいに進んだ。
少しだけ昔話もしてしまって……貴族側の話もたくさん聞いた。
向こうは向こうで苦労してるとわかったし、僕たちみたいな平民の苦労だとか生活でどういうこと考えてるとか、そういうことも理解してくださった。
領主様がこんな気さくで懐の深い人で、本当に良かった。
日差しはずっと沈んで、今では窓の外は橙色に染まっている。
そろそろ帰らないと。
向こうも多分、お腹が空いているだろう。
「もう5時か。いやいや、話が弾んでしまったな」
「ごめんなさい、長居してしまって」
「構わない。そうだな……」
指を組んでこっちを見る。
「今日は泊っていかないか?」
「え」
泊る……トマル……
泊るってつまり、この屋敷で一泊……
「いやいやいや!そこまでされたら申し訳が立たないです!」
「迷惑というほどでもない。如何せんうちは広くてな、部屋が余ってしまっているのだ」
冗談交じりでそういう言葉には、何処かあらがえないような不思議な力を感じる。
横でこっちを見ている執事さんの目も同様。
そうだよね、断りすぎるのも……
「わか…りました。でも、僕実はホテルでの仕事が今日のもありまして」
「それか、ホテル・ヴェルデといったか」
「はい。だからその連絡を……」
「わかった。早馬を出そう」
「すみませんありがとうございます」
こんなことまでさせてしまうなんて、僕は悪い子。
なんだろうこの気持ちは……
胸のざわめきというか、罪悪感にしては少し踊っている。
高揚感、ではないはず。
学校でずる休みをした時のような気持ち。
懐かしいような、そうでもないような。
「かまわんさ。セバスチャン」
誰かの名前を呼んだ。
瞬き。
目の前に人が1人増えている。
「うわっ!」
肩と心臓が跳ね上がる。
今さっきまでいなかったのに、まるでソファの後ろに隠れていたかのように当然とそこに立っていた。
「夕食の準備を2人分増やしておけ」
「かしこまりました」
そのまま、扉を開け出ていった。
(出るときは普通なんだ)
「夕食まで時間がある。メイドに部屋まで案内させよう」
「わざわざありがとうございます」
「ああ、では夕食時に」
「はいっ行こうルーナ」
「ん」
2人して立ち上がる。
「アラト様、ルーナ様。案内をさせていただきます」
笑顔でお辞儀をするメイドさん。
「よろしくお願いします」「ん」
頭を下げて返事する。
僕たちは目を進むメイドさんに着いていった。
次回へ!




