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白猫の功名ー1

ぬもぉ……

「ふう……」


 やっぱりこの水全然おいしくない。

 でも、すっかりのどを潤すことはできた。


「……」


 北区とは言え、路地裏はやっぱり怖いな。

 ルーナが行っちゃってから5分くらい。


 待っててとは言われたけど、暇だな。



 足音。

 なんとなく……ルーナだ。


「にゃっ」


 そう鳴いているルーナの手には、さっきの白猫が抱えられている。

 首にはハンデルベルクの紋章。


 僕の心は温かく包まれるような快感に支配された。


「よかった……ありがとう、ルーナ」


 言葉とともに、自然と笑みが零れる。


「……当然」

 そっぽを向いてそういった。


 やることも終わったし、ちゃっちゃと路地から出てしまおう。


「その子、名前なんて言うのかな」


「にゃー」


 僕を見つめる凛とした目にくすぐるような鳴き声。

 かわいい。


「ミィだって。雌」

「え、話せるの?」

「当然。私はネコ科の獣人」


……うらやましい。

 僕は人間。人間としか話せないっていうのに。


「いいなー……じゃあさ、どうやって逃げたのかとかってわかるかな?」

「にゃー」

「……なんとなく、家から見える外がうらやましくてこっそり出たって」

「家から?」

「ん。そう言ってる」


 つまり、僕の予想というか推理は、全部外れてたのか。


 顔が燃えるように熱くなる。

 ルーナの顔を見れない。


「……とりあえず、その子返しに行こっか」

「ん」「にゃー」



 着いたはいいものの、この子をどう返せばいいんだろう。

 こういう時の方法は……そうだ、門番の人だ。


「あのー……」

「「……」」


 言葉にない圧力。

 それに負けて一歩下がる僕。


 いや、言わないと。ここまで任せてしまったら、いよいよ何もしてない人だ。

 下がった足を前に出して、口を開いた。


「実は、冒険者ギルドで依頼を受けまして……この子なんですけど……」


 ルーナが門番の前に猫を突き出す。

 垂れさがるように伸びる胴体。


 その首には、きらんと紋章が輝いて見える。


「こ、これは……」

「……よろしいでしょうか、はい。はいそうです」


右の人が片耳を抑えながら、どこを見るでもなく何か話している。

念話っていうやつだっけ。

使える人は稀って聞いたけど。


 暫くそれを聞いた後……

 その人がこっちに素早くこっちを向いた。


「領主様とご息女のマリア様がお呼びです。お入りください」


 耳を突くような金属音とともに、閉ざされた扉が開いていく。

 ホントに入っていいのかわからないくらい、別世界の光景。


 ゆっくりと慎重に進んでいく。

 しかし、まるで自宅かのように遠慮なく歩くルーナ。


 それを追いかけていく。


「ひろいねぇ……」

「中々」

「中々って、ははは」


 迷路、かミステリーサークルのような芸術的に作られた葉っぱの……


(なんていうんだっけあれ。ガーデニング?パルテール?)


 パルテールのガーデニング。

 きっと毎日お手入れしてるんだろう。

 そういうのも含めて、権威の象徴的な意味合いもあるのかな。


 止まることなく目をうろつかせる僕に対し、ルーナは真っすぐミィちゃんを抱えながら横を歩いている。


 そんな中───


「──ぃ~~!」


 前から誰か走ってくる。

 小さい人影のような……


 近づくたびに、見えてきた。


「ミィ~~!!」


 大きなドレス、心地の良い靴の音。

 長い茶色の髪か携えられた小さな女の子だ。


 その後ろにも誰かいる。

 タキシードの……執事さんか。

 かなり若い、僕と同年代か少し上くらいかな。


「あのっもしかして、ミィを見つけてくださったのですか!?」


 潤んだ瞳で僕たち2人と猫を見る。


「えと、そうだね。まあ僕は何もしてないんだけど……」

「関係ありませんわ!ミィと私のことを思ってくださったそのお気持ちが嬉しいんですの。心より感謝しますわ」


 ドレスの端をつまんでお辞儀。

 お手本のようなきれいな所作、言葉遣い。


 これが貴族のご令嬢……すごいな。


「よろしければ、ミィを見つけてくださった皆様の名前を伺いたいのですけれど、よろしくて?」


「……」

 奥で執事さんが睨んでる。

 心に、逃げるの選択肢が浮かぶくらいの威圧感。


 ちゃんと答えないと……


「僕はアラト。冒険者をやっています、よろしくお願いします」

「あら素敵な名前ですこと!こちらこそですわ!それに、敬語なんてよろしくてよ?」

「え、でも……」


 執事さんを一瞥。

 変わらずこっちを睨む彼に、令嬢は頬を膨らませる。


「もーハル!やめてくださいまし!」

「で、ですが……はい、失礼しました」


 こっちに振り替えると、すぐに笑顔が戻る。


「では、そちらの方のお名前もお教え下さるかしら?」

「ルーナ」


 予想もしないほどの淡白な返事。

 これは、僕が補足しないとかな。


「えと、ルーナは僕の幼馴染で……」

「あらまあ!」

 顔の横に手を合わせ、目の輝きが増す。

 その目はなんだか、乙女チックなものを感じた。


「ということなら……ご出身はここですの?」

「出身はアジス村っていう、まあ田舎の村かな」

「まあそうですのね!あっ申し遅れました。私はマリア。気軽に呼んでいただけると嬉しいですわ」

 胸に手を当てそういった。

 なんて呼べばいいだろう……マリアさん、マリア様……


「マリア……さん?」

「あら、気楽に“マリアちゃん”と呼んでくださいまし」

「マリアちゃん」


 わかってた。

 執事さんがそういう顔をするのはわかってた。


 でも、マリアちゃんがそう呼んでって言ったおかげか鋭い瞳はすぐに元に戻る。


「ミィ、いらっしゃい」


 ルーナの手元からするっと抜けると、マリアちゃんの胸元に駆けていく。

 そのまま抱きかかえられ、少女の笑顔とともに喉を鳴らしている。


「ささ、お話の続きは屋敷でしましょう!」


 そういって、先導するように前を歩くマリアちゃんとそれを守るように後ろを歩く執事さん。

 さっきハルとか言ってたっけ。


「い、いいの?僕なんかが……」

「いいんですのよ!何せ恩人なんですから!」


 恐る恐る、屋敷へ近づいていく。

 遠目で見てしまうほどの大きな屋敷。


 すくむ足。

締め付けられるような胸の中は、かすかに踊っていた。


来週に続くぬもぉ……

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