~飢える羽の子(2)~
「へぇ…何の恨みを買う訳でもなく、素知らぬ、人の形をした何かに、窓を突き破られて襲われたっ…と」
「……概ね、そんな感じです」
『狙いは僕達だけだった』と言わんばかりに、建物内に傷は無い。それでも床には、壁には、姿形も知らぬ濡れた足跡がまだ残されている。
事実を述べているのにも関わらず、到着した衛兵の態度は実に懐疑的。僕は溜め息が漏れ出るのを何とか堪えた。
「まぁ━━━。俺達個人としちゃあ、お前ら異端なる冒険者を助けたくはないんだが。その毒牙とやらが民衆に振り掛かる可能性を否定する事は出来ない。
だから受理はしておこう。あるかどうかは分からんが、ヤーの導きとやらを願っておいてやろう。建前だけでもな?」
「……そりゃどうも」
逐一、言葉の節々を尖らせた発言が僕らを突き刺す。無表情ながらも、強く口を結ぶ彼女の顔からも怒りの色が伺える。
彼女の目の前を覆う形で、彼等と同じく建前の礼を述べると、衛兵の二人は重そうに身体を出口へと運ぶ。
「やれやれ……またこの手の輩か」
━━ん…?
「ちょっと待って、今『また』って言いましたか?」
空耳ではない。小声ではあるが、事実なら衛兵の繰り言は今回と同様の事例が他でも起きた事を示唆している。
「……何だ? お前等に教える義理も道理もないぞ?」
「いやいや、もし連続で起こっているのなら予定を変更する必要も有りますし、何より今日一日雨ざらしになった部屋で身構えて過ごす事になるんですよ。昼だって、叡知派の輩に面倒吹っ掛けられましたし。
僕達だから良かったモノの、これが市民だったらどうです? ━━自分で吐いた唾には責任を持ってくださいよ」
適材適所というやつだろうか。こういう時ならば、彼女よりも僕の方が強く出る事が出来る。
事実は事実。今の僕の口から嘘出任せの類は出ない。なればこそ、多少の慇懃無礼を口車に上乗せした所でバチは当たらない。
「……っははは!!中々に肝の太いヤツじゃないか!
そうかそうか。クローネのヤツが話してたのはコイツ等の事だな? 昼に叡知派にちょっかい掛けられてたって言ってたしな」
「多分な。なら、まぁ教えてやっても良いだろう。その口車に乗ってやるとするか」
…どうやら、事なきを得たらしい。そしてまたしても、あの衛兵とやらが裏に絡んでいるようだった。
彼の名前を聞いた途端、僅かばかり彼女の表情には陰りが見える。……気掛かりではあるが、衛兵達がご機嫌な内に本題を聞かなければならない。
「……それで、『また』っていうのは?」
今度は何を渋るでもなく、すぐに衛兵は答える。
「……お前等が昼に出くわした叡知派には、一部過激派が存在するんだよ。飢えて苦しむ上、人に非ずと存在を世界が否定する。そんな奴等にとって叡知派の在り方は、命を繋ぎ止める一本の荒縄だ。
しがみつき、『人である』と誇示し、それを理由とした『防衛』として狼藉を働く。奴等は自身等を『トライア派』と唱っている」




