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~飢える羽の子(3)~



 夜は寒い。首都は毎日が過ごしやすい気候ではあるものの、今日の様に時たま薄氷の張る凍雲が、裂くような冷気を風に載せる日がある。降り荒ぶ雨は依然強く、折角の屋根の下だというのに、濡れた窓際が目に入った途端、溜め堪えていた嘆息が一気に口から漏れ出てきた。



 「ぬ、濡れてるのは窓際だし……大丈夫! お布団は濡れてないから!」


 「……そうだね」


 「あぅ……えっと……」



 …どうにも、此処まで諸々が詰まり、溜まると、会話が途切れる。彼女が励ましてくれている事は分かるが、今はそれ以上に疲弊と『トライア派』への関心の方が強い。


 話だけ聞けば、彼等ならず者と大差無い、信仰で動くの蛮賊。あの様に襲って来る者が一人だけじゃなく、複数で群れて牙を向いて来たならば逃げる事すらも敵わないだろう。



 「……予定を変更しよう。今夜休んだら、明日には出発だ。此処にいれば、僕等までトライア派とやらの槍玉の餌食になりかねない」


 「うん………分かった」


 「………パーシィ?」



 表情に陰が差した彼女(パーシィ)。賛同の証として首を縦には振るっているが、裏側には噛み潰しきれない何かを含んでいるようで、気になってしまった。


 彼女は答える。



 「衛兵さん達が言ってたよね。トライア派の人達、苦しんでいるんだって…」


 「…みたいだね」


 「……私達を襲った人はね、武器(ナタ)だって錆びてて、服って呼べる物だって誰かが捨てたかもしれないボロボロの布だけで……。腕も細くて…すぐにでも折れちゃいそうな白い肌で…。


 …でも、押し負けそうだった。加減した訳ないのに……あの人はもしかしたら、『人』として生き返る為に必死だったんじゃないかって…」



 ……黙って僕は、耳を傾ける。



 「助けてあげたいって思うのは…変な事だと思う?」


 「………………」





 問いへの回答が、すぐに出てこない。


 それは僕が残酷主義だからなのだろうか。



 ……彼女の感性を理解は出来た。でも、納得も賛同も出来やしない。かといって、それを『否』と断言する程腐ってもいない。明日には死ぬかもしれない世界に生きる者として、真っ直ぐ過ぎる。


 羨ましいとは思った。でも………



 「……おかしくはないよ。高望みだとは思うけど、ね」



 それでも、染まりたくなかった。染まり切ってしまえば行き着くのは、『人』にとっての『都合の良い存在』という看板だ。ましてや自分達に向けて毒牙を差し向けて来た者に対してわざわざ施す理由など無い。


 ……いや、違う。違うから、僕は今、理由を()()()()()()。否定的であれど、普段ならばもう少しは彼女(パーシィ)の意図を汲んでオブラートに包める筈だ。


 今の言葉にはなかった。膜に包まれぬ否定は、叡知派(やつら)の振りかざす『正義(やり)』と大差がないというのに、己の領域に迫る彼女の選択を強く拒んでいる。



 「……僕達は英雄じゃない。愚か者と吟われる『冒険者』でしかないんだ。何の力もなく、何の特別性もないから此処にいる。


 君は身を滅ぼす危険性を、少しは考えてた方が良い」


 「あ…その……ごめん……」



 何を、何をそこまで苛立っている? …己で己に問い掛けるが、僕自身は決して答えようとしない。抱いた不服と気持ち悪さが酷く、錆び付いた歯車のような噛み合わせの悪さを引き起こしていた。

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