僕の葬りたい一日。
「では、大掃除をすると言うことで」
顔のほとんどを茶色の毛で隠してる男性──ロムス殿が穏やかな声音で短時間で結論まで達した会議を締めくくりました。
こんにちは僕です。十三迷宮市、自警団三班所属のアランです。そしてここはギルドホール三階にある会議室です。僕は今日初めて入りました。同席している方々はギルドマスターのフエン殿や歓楽街組合の組合長GG様に市長のエドゥ殿の賢人様達と、賢人でもある自警団の団長のフレッドさんに副団長のイザナさんの自警団ツートップ、『伝説』ロムス殿に負けず劣らずの面々です。
さて、何故こんな会議が行われいるのか? それを説明するには少し時間をさかのぼなければいけません。そう今日のお昼頃まで。
* * *
「すみません、フレッド君にお会いしたいのですが」
詰め所で、巡回終わりに購入してきたお昼ご飯──炒めひき肉がけご飯です──を食べていた僕は穏やかな高めの声で呼びかけられました。顔を上げれば生ける伝説ロムス=マージ殿が……って!?
「はははいっ!? ……あ、いやすみません、団長は今日非番で」
慌てて立ち上がりご案内しようとして気づきました。
「ええと、呼んで来ましょうか?」
団長殿は独身で二層の自警団の寮住まいですし……、
「いえ……ではイザナ君を……ちょっとここ最近の市内の治安についてお話したいので」
「あ、はい、ではご案内します」
治安? ……あ、たしかにちょっと荒れ気味だよなぁ。
* * *
ロムス殿をご案内し、昼食の邪魔をしてすみません、との恐縮しちゃう謝罪をいただいた僕は、冷めてひき肉が白っぽくなっちゃったお昼ご飯を掻き込み日誌にロムス殿の来訪を印し初めます。すると書いてる途中で昼食に連れ立って出ていた班長達が戻って来ました。
「あ、お帰りなさい」
「おー、ただいま、留守番ご苦労、なんか変わったことあったかい?」
普段なら特に何も、って返すけど、
「はい、ロムス殿が団長にお会いに、非番であることをお伝えしましたところ、じゃあということで現在イザナさんのところに」
今日はついさきほど稀人がいらっしゃいましたので。
「はっ!? 伝説がっ!?」
「はい、伝説が」
気配が無さすぎてドキドキする成長途中な僕とあんまり身長が変わらないあの人が。
「……あー、仕事増えんなー」
「あー、ですね……」
治安について、だったしね。
* * *
……なんで僕ここにいるんだろう。いえ理由は聞いていますが。
「じゃあ治安の悪化は事実なんですね?」
荒事が似合わない上品な外見ながら凄腕のウォーアックス使いだと名高い市長殿に問い掛けられた僕は、
「はい、市長、目に見えて悪くなった訳ではありませんが軽犯罪は先月比で増加しております」
ビックなメンバーに緊張しつつ質問に答えます。
はい、つまり冒頭の会議の最中です。
あの後ロムス殿と話し合った副団長は状況を重く見たのか会議を開くことを決め、僕に市長殿と団長を呼びに行くように指示を出しました。そしてお連れした僕はロムス殿がお呼びしたらしいGG様を加えた方々にちょうどいいって感じで質問をされている訳です。
「……ヴィレッジ、それは上役に?」
副団長殿が額を抑えながら質問、え、そりゃもちろん。
「はい、班長と副班長には報告しております。ですので副班長の指示で三班は巡回等を強化してます」
今もラウ兄さん達は巡回中です。で、
「……ええと団長達や他の班には班長から伝えると、聞いて、いたのですが……」
副団長殿の額には青筋が……つまり、
「……ググラのボケ、後でシメル」
班長ーっ!? また忘れましたねっ!?
「……ラウがそつなさすぎるから……弛みまくってやがる」
うう、はい、そうなんですよね……悪い人では無いんですが……指揮力高いですし。
「……あー、つーか、それ三班以外は気づいて無いのか?」
ギルマスのフエン殿が苦笑しつつ首を傾げます。ええとそれはですね……、
「……ヴィレッジは特殊なんだ。自警団員なのに一般人並の事件遭遇率で……あー、うん、便利だよな」
「……すみません副団長、抑止力皆無で」
自警団の制服姿なのに目の前で引ったくりが起きる僕です……うう、厳つさが欲しい。
「……つまり市内の状況が一番にわかる訳か……あー、うん、便利だな」
お気遣いありがとうございますギルマス殿……、
「……えー、あー、はい、で、ロムス殿はどういったことで治安の悪化をお感じに?」
市長殿もお気遣いありがとうございます。……でもたしかにちょっと疑問ですね。
「ああ、実は今朝、家の従業員が痴漢に遭いかけまして」
瞬間、室内の温度が体感で五度くらい下がりました。
「まあ、あの子ですのでサラっと返り討ちにした訳ですが……少し前のあの集団のことと考え合わせるに……ねぇ?」
……そういえばシャーロック君は対人戦闘は結構得意なんだっけ? 以前ラウ兄さんと相手の行動を操る挑発術について語り合っていたな……あー、はい、現実逃避中です。さらに室温が下がりましたので……皆さんほんとシャーロック君が好きなんですね……、
「と、いうことでまずは性犯罪者をと……GGさん、お宅のお嬢さん方のご協力をお願いしたいのですが」
あ、だからGG様が、
「ええ構いませんわ。……でも家の子達は……んー、あんまりシャロ君を狙う層には受けないかも知れませんわねぇ」
「あー、たしかになー、お前んとこ清楚系もいるこたいるけど……微妙に毒々しいんだよな……あんま若くも……あ、今の無しでっ!」
……あー、シャーロック君、見た目は天の使いっぽい美少女だからなぁ、そしてギルマス、女性の年齢は触れるべからずです。
「でも普通の清楚なお嬢さんに囮は無理でしょう? GGさんのお嬢さん方ならば軽くあしらえるでしょうが」
「そうですね……本来ならば自警団員を使うべきだろうが……」
家の先輩方は……うん、僕よりも抑止力に溢れています。
「……いや、一人清楚系のお嬢さんで通るのが……」
ん? いますか副団長殿? 心当たりが……え、皆さん? 何故僕をガン見?
「……う、うふふ、これはいけますわ。ふふ、腕が鳴ります」
え、あの、え?
翌日、早くも大掃除は行われ、自警団の留置所は満員になった。
その殊勲者として僕はビックなメンバー達からお褒めのお言葉をいただいた訳ですが……、
「あの、着替えても、」
「えー、わたくし共の努力の結晶なのに!」
「そうそうスッゴく似合ってるぞー」
「ええ、アラン君はお姉さんと本当にそっくりですね」
「え、あの噂のラウの彼女? ……あいつ面食いだったのか」
「……今度からこういう囮が必要な時はヴィレッジに頼もう」
「んー、コンテストを開催したら盛り上がりますかね?」
「着替えて来ます!!」
……闇に葬りたい一日になりました。
『アラン=ヴィレッジ』
元農家の息子、現在は自警団三班所属。
自警団内では最年少、故に他の団員達に色々と可愛がられている。
基本的に第二層、三層の巡回任務を行う。
後に義兄となったラウ=ルーに徹底的に仕込まれた剣術はかなりの腕前。
だが、とにかく見た目が弱そうなのでなめられやすい。
実は犯罪者捕縛数自警団トップだったりする。




