台風
八月八日土曜日台風
窓を叩きつける雨音は勢いを増す一方で衰えを見せない。時折風が家を揺らしている。
予想以上の大雨、天気予報では何度もそう言っている。外に出る予定は昨日で終わらせたので、今日は家にいる。
居間に行くと、おばあちゃんがテレビを見ていた。母さんはスマホを弄っていて、父さんは新聞を読んでいる。
「今日、台風だって」
誰に言うでもなく言ってみた。
「そう」
母さんが画面から目を離さずに答えた。それだけだった。父さんは窓の外にチラリと目をやると、天井を見上げて雨漏りしないかを心配している。
テレビから台風情報が流れている。雨の強さや進路、不要不急の外出は控えるようにという話をしている。
いつもより妙に電気が眩しく感じる部屋で、いつも通りに過ごしている。
「ねぇ、見てよ。風も強くて雨粒大きい……本当に飴玉みたい」
貴女は窓の外を見ながら嬉しそうに言っていた。
「危ないから外出ちゃ駄目だよ。というか、なんで僕の家に来てるのさ。この天気の中」
「君が雷とか停電とか心細くて泣いちゃうかと思って」
「そ、そんなわけないだろう!別に怖くなんかないし、泣かないし……」
あの時はそんな風に返したが、実際心細かったのは貴女も同じだったのだろう。
停電した時は懐中電灯をもって一緒に布団を被って話続けていたこともあった。
「こんなに暗闇が冷たいと寂しくなるよね。夕立もさ、夏の大雨ほど悲しくさせるものはないよ…」
台風なんて、ただの雨と風だと思っていた。
貴女には同じなのに全く別のものに見えているらしくて、そうして窓の外を見つめる揺れた瞳は水色に見えた気がした。
悪い家ではないと思う。
ご飯も作ってくれるし、寝る場所もある。具合が悪ければ病院にも連れて行ってくれる。必要なものを頼めば買ってくれる。
けれど、どうしてか居心地の悪さと、受け入れてはいけない気がする安堵がこの家にはある。
風に煽られて今にも折れそうな木々がミシミシと悲鳴をあげている。そんな外よりも一段と冷えた空気がこの家には広がっていた。多分この冷たさとはまた違うんだろうけど、貴女の言う寂しさはこれに近いんだろう。




