古本屋
八月七日金曜日曇り
頭が重くて耳鳴りがする。低気圧のせいだ。頭痛薬を飲んで少し突っ伏していた。いつも通り朝ごはんを食べて、おばあちゃんの世話をして、洗い物をしたら午前がほぼ終わってもうすぐ昼時だ。
午後から雨が降るので早めに昨日詰めたダンボールを持って買取に出さなければ。
ほとんど乗っていない車のトランクに全部乗せて出発する。
家から駅は近いが、買取店などは反対方向で車が必須で些か不便だ。車内が蒸し釜の様に暑くて、フロントガラスの近くに置かれていた猫のソフビフィギュアは平べったく溶けていた。顔と申し訳程度に耳が無事なのでこれはこれで可愛いかもしれない。
最初に古本屋に向かった。ダンボールを抱えて店に入るとあんまり涼しくなくて、なんだか古本屋らしい気がしてよかった。
「すみません、買取をお願いしたいです」
「買取ね、ものはここに置いてこの紙記入しといてくれ。状態確認して仮査定出すから」
ぶっきらぼうに用紙とペンを渡すと、ダンボールを抱えて裏に行ってしまった。
用紙に名前、年齢、住所、電話番号、購入元など次々に書いていく。
「身分証も出しといてくれ」
「出しといてくれじゃなくて、お願いしますだろ?言葉遣いに気をつけな」
突然女の人の声がして、裏から女性が出てきた。
「うちの旦那がごめんなさいね。何度言ってもなおらなくて」
店主の奥さんだった。見た目はとてもほんわかしているのに、とってもしっかりした方だ。
「いえ、大丈夫です。何度か利用させてもらってますが、優しい方ですよ」
「本当かいね?」
笑いながら奥さんはなにか用事があるのか、外に出て行ってしまった。
記入し終わると同時に奥から店主が出てきた。
「状態もそこそこでシリーズ全巻だから、二作品合わせて四千円だな。売るか売らねぇか決めな」
「それでお願いします。それとこれが身分証です」
「ちょっと待ってろ」
受け取って確認すると、用紙になにか書き足しはじめた。
その間に少し店内を見てまわる。貴女と一緒に来た時は、貴女のペースに完全にのまれていつも見失わないように着いていくので精一杯だった。今はじっくり見られるのがなんだか寂しい気がする。「本はね、世界を一瞬でかえちゃうの!ファンタジーなら私は魔法を使えるようになるし、ミステリーなら私は名探偵!君はなにかにならなくていいの?」そうやって僕に本を選ばせてくれるのかと思ったらまた頑張って追いかけなきゃいけないこともあった。
「終わったぞ」
「はい、ありがとうございます」
レジまで戻ると店主が四千円をさっきよりかは丁寧に渡してくれた。
総合買取店とカードショップも行って、合計で一万近く手に入った。売ったもののほとんどが両親に買い与えてもらったものなので、家を出る時に置いていく封筒にしまった。
車を叩く雨音が次第に激しくなってきて、とうとう台風を感じさせる。湿気と暑さとぺトリコールで、密室が腐っていくような感覚だ。




