向日葵
八月二十七日木曜日快晴
昼頃になってから家を出た。朝から行くほどの場所でもないし、今日は特に予定もなかった。祖父母の家に戻ってきてから、気が向いた時に外へ出ることが増えた。少し遠くまで歩いてみようと思った。向かったのは、昔祖父と一緒に行った向日葵畑だった。子供の頃に一度だけ連れて行ってもらったことがある。毎年同じ場所にあるのかは知らない。祖父に連れられて歩いた道を、なんとなく覚えているような気がして、その記憶だけを頼りに進んでいった。住宅街を抜ける。見覚えのない家が増えてきた。道も少しずつ細くなって、舗装の隙間から草が伸びている。途中で何度か道を間違えた。スマートフォンで場所を確認しながら歩いていると、遠くに黄色いものが見えた。近づいていくにつれて、それが向日葵だと分かった。畑一面に向日葵が咲いている。思っていたよりずっと広い。背の高いものばかりで、僕の目線から見えるのは黄色い花と緑の葉、それからその向こうにある青い空だけだった。畑の端に立って、しばらく眺める。太陽の方を向いている花が多い。どれも同じ方向を向いているように見えるのに、よく見ると少しずつ角度が違っていた。風が吹くと葉が擦れ合って、ざわざわと音を立てる。蝉の声も聞こえている。昼間の暑さはかなり厳しかったけれど、向日葵の黄色を見ていると、それすら夏らしいものに思えてきた。祖父と来た時も、こんなに暑かっただろうか。たしか祖父は帽子を被っていた。僕にも被せようとしてきたけれど、子供だった僕は嫌がって逃げた気がする。結局、祖父が自分の帽子を僕の頭に乗せて、そのまま二人で畑を歩いた。祖父は向日葵を見るたびに立ち止まっていた。僕は早く帰りたくて仕方がなかった。花なんて見ても面白くないと思っていたし、暑かった。祖父が何を話していたのかは、もうほとんど覚えていない。ただ、何度も僕の方を見て笑っていたことだけは覚えている。畑の周りには細い道があったので、そこを歩いて一周してみることにした。近くで見ると、向日葵は思っていたより大きい。葉には小さな虫が止まっている。花の中心には細かな粒がびっしり並んでいて、蜂がその間を動き回っていた。写真を撮っている人も何人かいた。家族連れの子供が向日葵を指差して何か話している。昔の僕も、あんなふうに何かを言っていたのだろうか。少し歩いたところで、向日葵畑の向こうに山が見えた。以前行った山とは違う方向だったが、夏の空の下ではどこも同じように見える。貴女なら、ここへ来たらどんなことを言うだろう。向日葵を見て「大きいね」と笑うだろうか。それとも、暑いから早く帰ろうと言うだろうか。貴女のことを考えながら歩いていると、昔の記憶と今の景色が少しずつ混ざっていくようだった。祖父と歩いた道。貴女と過ごした夏。そして今、一人で歩いている僕。どれも同じ夏の日なのに、そこにいる人だけが違っている。畑を一周し終える頃には、汗で服が少し重くなっていた。もう十分だと思った。来た道を戻る。振り返ると、向日葵はまだこちらを向いているように見えた。もちろんそんなわけはない。僕が勝手にそう思っただけだ。帰り道は行きより短く感じた。祖父と来た時も、帰りはこんな感じだったのかもしれない。家に着く頃には、太陽が少しだけ西へ傾いていた。玄関を開ける。中は涼しくない。窓を開けて風を通す。冷たい飲み物を飲んで、畳の上に座った。今日は向日葵を見た。それだけだった。でも、それで十分だった。昔の僕が見ていた向日葵と、今の僕が見た向日葵は、きっと同じものではない。景色が変わったのか、僕が変わったのか、それは分からない。ただ、帰ってきた時に少しだけ懐かしい気持ちになった。それだけを覚えておこうと思った。




