夕立
八月二十一日金曜日晴れ
昼過ぎから町の方へ出かけた。特に用事があるわけではなかったが、ずっと祖父母の家にいるのも少し退屈だった。商店街を歩いて、本屋に寄ったり、何となく店を眺めたりする。昨日の祭りの名残なのか、道の端には小さな紙屑がいくつか落ちていた。空は晴れていたのに、少しずつ雲が増えている。帰ろうかとも思ったが、まだ大丈夫だろうと歩き続けた。しばらくして、ぽつ、と頬に何かが当たった。雨だった。もう一度空を見る。さっきまで青かったところが、いつの間にか灰色になっていた。次の瞬間には雨粒が一気に落ちてきた。夕立だ。傘なんて持っていない。走って近くにあったカフェへ入った。店員に案内されて窓際の席に座る。外はさっきまでの晴れが嘘みたいに暗くなっていた。窓を叩く雨の音が大きい。道路を走る車が水を跳ね上げていく。店内には数人しかいなくて、みんな雨が止むのを待っているようだった。適当に頼んだ飲み物を一口飲む。温かい。
窓の外を眺めていると、貴女と一緒にいた時も、こんな雨に降られたことがあった。その時は貴女が「なんか湿った匂いがする……たぶん雨降るよ」って直前にわかっていたが、傘を持っていなくて二人で軒下に逃げ込んだ。貴女は濡れた髪を気にするでもなく、楽しそうに雨を眺めていた。「ははっ、やっぱりね!」なんて言っていた気がする。僕は早く止んでほしいと思っていた。けれど貴女は、雨が降るたびに何か嬉しそうにしていた。水たまりを見つければわざと踏もうとするし、雨が弱くなると「もうちょっと降っててもいいのにな」なんて言う。雨が降っている間だけ、町の音が遠くなる。いつもの景色もぼんやりして、知らない場所みたいになる。窓についた水滴が流れて、その向こうの人や車を歪ませている。貴女と一緒なら、きっとこの雨さえ楽しかったのだろう。そんなことを考えているうちに、雨脚が弱くなってきた。雲の隙間から光が差し込んでいる。しばらく待ってから店を出た。道路には大きな水たまりができていて、空を映していた。さっきまでの雨が嘘みたいに、蝉が鳴き始める。濡れたアスファルトから、夏の匂いが立ち上っている。傘を持っていないことを少し後悔しながらも、帰ることにした。夕立の後の道を歩く。空はまだ明るかった。町を抜けて、祖父母の家へ向かう。今度は迷わなかった。玄関を開けると、昨日開けたままにしていた窓から風が入ってきていた。濡れた服を着替えて、縁側に座る。夕立はもう遠くへ行ってしまったらしい。庭の葉から、残った雨粒が一つずつ落ちていた。貴女がいたら、また雨の話をしていたのだろうか。そんなことを考えながら、暗くなっていく庭を眺めていた。




