映画館
八月二日日曜日晴れ
昨日の反省を活かして今日は日の暮れる十七時に家を出た。日は傾いてから落ちるまでが早いので気づけば街灯が明るく、目的地の映画館に着いた頃にはもう日は完全に沈んでいた。
外があまり暑すぎなかったので中に入ると少し寒く感じたが、次第に体が慣れていき寒くはなくなった。
何を見るか決めていなかったので、ちょうど席の空いていた貴女が好きそうなアニメ映画を見ることにした。
昼にろくなものを食べて来なかったのでポップコーンを買うことにした。普段なら買わないが、たまにはいいかもしれない。小さいサイズの塩味を注文した。貴女だったら迷わずキャラメルを選ぶが、こればっかりは譲れない。
受渡し口でポップコーンを受け取った。小さいサイズの容器にいっぱいに入ったポップコーン、その上にてらてらと光るほどのバターがかけられている。胸焼けしそうだが、まぁそれもいいだろう。ポップコーンのふわふわとした甘い匂いが僕のまわりを包んだ。
入場開始時間まで近くの椅子に座ってぼーっとしていた。もうすぐ十九時だというのにたくさんの人が楽しそうにしている。少女は嬉しそうにキャラクターのポップコーンホルダーを首から下げてお母さんに「〜凄かったよね!あたしもあんな風になるの!」なんて無邪気に言っている。どうかその無邪気さが綺麗に汚されることを願うばかりだ。
「お待たせ致しました。十九時十分より上映開始、七番スクリーンのご入場を開始いたします。チケットをご用意のうえ入場口までお越しください」
入場開始のアナウンスだ。さっき購入したチケットを用意して入場する。席は両隣に誰もいない場所を選んだので端寄りで見にくいかと思ったがそうでもなく、席に深く腰掛けて鑑賞する。確か上映時間は百分で終わるのは二十時五十分だ、駅まで少し歩くので終電が心配だが何とかなるだろう。上映前広告も程々に、灯りが消えて本編が始まった。
エンドロールが流れている。いつもなら終わったそばから立ち上がり帰るのに。今日は何故だか立てなかった。いや、立ちたくなかった。
映画の内容はよくある様なもので、中身が濃いように見えて在り来りで薄っぺらいだけのもののはずだ。
貴女はいつもこんな想いの中エンドロールを眺めているのだろうか。どうにも羨ましくて現実が痛いのに嬉しい。
周りを見れば他の人はほとんど退席していてスタッフが掃除をするために入ってきていた。慌てて荷物をまとめて自分も席を後にする。
今まで感じたことのない感情に少し放心していたら終電の時間に間に合わなくなってしまった。
乗り換える前までの電車はあるのでそれに乗り、残りの道は歩いて帰る。二十二時、都内に住んではいるけれど、田舎の方では終電が早くて困る。家に着くのは早くて半頃だろうか、とにかく歩かなくては。
家の数は次第に少なくなり、田んぼと畑が広がる。薄雲に遮られた月は、ついに橙色を越して朱色に光っている。光が滲んでぼやけた月はどこか陽炎に似たものを感じさせる。鈴虫の鳴き声が涼しさを感じさせて蝉の鳴き声が暑さを感じさせる。嫌な音だ。
貴女は自由に美しい世界を見ている。今この場にいたのなら鳴いている鈴虫か蝉を見つけ出してその場に固まってじっと見つめていただろう。家に帰ることなんかオマケに変えてしまって、ただ無駄に歩くだけの時間を宝探しにしてしまう。
でもやっぱり僕にはそんな気持ちはよく分からない。けれど、少し涼しい風の抜けるこの帰り道は嫌ではない気がする。




