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夏祭り

八月十八日火曜日晴れ



昨日海から宿へ戻る途中、ふと思い出した。父方の祖父母の家が、この辺りにあったはずだ。正確にはもう誰もいない空き家だけれど、そう遠くない場所にある。墓参りをした時にはすっかり忘れていた。そういえば昔、祖父母の家に行った時に少し遠くで祭りをやっていたこともあった気がする。夏になると毎年やっていたような気もするが、いつだったかまでは覚えていない。宿に戻ってからスマートフォンで調べてみると、ちょうど祭りの時期だった。昨日から始まっていて、今日と明日までの三日間やっているらしい。昨日は海にいたから知らなかった。明日でもいいけれど、せっかくなら今日行ってみようと思った。着替えて、荷物を全部持って外へ出る。祭りへ向かう道は不思議と足が軽かった。会場までは歩いて三十分ほどらしい。

夕方になって日差しが少し弱くなっている。住宅街を抜けると、遠くから太鼓の音が聞こえてきた。最初は気のせいかと思ったが、歩いていくにつれて少しずつ大きくなっていく。通りには浴衣を着た人も増えてきた。家族連れや友達同士の人たちが、同じ方向へ歩いている。普段なら知らない人たちに混ざって歩くのは少し落ち着かないが、今日はそれほど気にならなかった。会場に近づくと屋台が見えてきた。焼きそば、たこ焼き、焼きとうもろこし、りんご飴、かき氷。甘い匂いと油の匂いが混ざっている。人が多くて歩きにくい。小さな子供が走っていったり、浴衣の袖を引っ張りながら歩いている人がいたりする。どこを見ても人だらけだった。「みんなが明るい人混みだよ!」とか言って、貴女ならきっと僕より先に人混みへ飛び込んでいっただろう。昔、一緒に祭りへ行った時、屋台を見つけるたびに立ち止まって、あれ美味しそうじゃない?、これも可愛くない?と言っていた。僕がどの屋台にも興味を示さないのを見ると渋々諦めて、りんご飴の屋台に向かう。そんなことを思い出しながら、屋台を眺めて歩く。せっかくなので何か食べようと思い、焼きとうもろこしを買った。熱い。食べるのに少し苦労したけれど、香ばしくて美味しい。次にかき氷を買った。一気に食べると頭が痛くなる。分かっているのに、頭をキーンとさせてしまった。金魚すくいもあった。水の中を赤や白の金魚が泳いでいる。すくっても家に持って帰れないので眺めるだけにした。射的の店では子供たちが景品を狙っている。的が倒れるたびに歓声が上がる。少し離れたところでは輪投げをしている人もいる。どれも特別珍しいものではない。ただ、こうして全部が一度に並んでいると、それだけで夏祭りらしく感じる。日が沈み始めると、提灯に明かりが灯った。昼間とは違う景色になっていく。人の顔も少し暗くなって、屋台の明かりだけが妙に明るい。太鼓の音が近くで鳴っている。誰かが笑っていて、子供が楽しそうに高い声をあげている。風に乗って焼き物の匂いが流れてくる。なんでもない夏の夜だった。

貴女が今の僕を見たら「もう少し楽しそうな顔したら?お祭りなんて、なかなかないんだからさ」と言われるだろう。小さめのりんご飴を片手に、可愛らしい浴衣でも、ワンピースでもないただの大きめのシャツに短パンを履いていた貴女が一番夏祭りらしかった気がする。自分でも少し笑ってしまう。貴女がいなくなってから、こういうことを一人でやるのは初めてかもしれない。今までは何を見ても、貴女ならどうするだろうと考えていた。けれど今日は、貴女がどうするか考えながらも、自分で屋台を選んで、自分で食べて、自分で歩いている。それが少しだけ嬉しかった。

人の流れから離れて、来た道を戻る。祖父母の空き家はまだ見ていない。今日はもう遅いし、明日にでも探してみようと思った。振り返ると、まだ会場の明かりが見えていた。明日は帰省した時によく行っていた神社に行こう。そんなことを考えながら、夜道を歩いた。

仲睦まじく会話をしている家族とすれ違う。熱の冷めやらぬ祭囃子は次第に小さくなっていく。

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