漁港市場
八月十六日日曜日晴れ
朝から港の方へ向かった。昨日は結局夕方まで寝直して宿でぼんやりしてたので、今日は少し観光らしいことをしてみようと思った。駅から歩いていると、潮の匂いが次第に強くなっていく。昨日も海を見たけれど、今日は昨日よりずっと明るい。太陽が水面を照らして、目を細めないと眩しいくらいだった。
港には大きめの市場があった。魚や貝が並んでいて、店先から威勢のいい声が聞こえてくる。朝が早いにも関わらず、観光客らしき人も地元の人も大勢いる。発泡スチロールの箱に氷を敷いて、その上に見知った魚も全く知らない魚もいろいろ並べてある。
「これなんだろう」
名前を見ても分からない。店の人に聞けば教えてくれるのだろうけれど、買うつもりもないのに聞くのは少し気が引けた。
市場の奥には食事のできる店もあったので、せっかくだから何か食べようと思い、海鮮丼を頼んだ。色々な魚が乗っていて、どれが何なのか分からないまま食べた。隣の観光客は「やっぱり新鮮なのは違うな!味がはっきりしてて美味しい」なんて言っているが、僕の舌が悪いのか何が違うのか僕にはよく分からない。ただ、ちゃんと美味しいし、朝から食べるには少し贅沢だった。
港には船が何隻も停まっている。小さな漁船もあれば、少し大きな船もある。波に揺られるたび、船同士が小さくぶつかって音を立てていた。競りもやっているようで、たまに呪文のような大声と拍手が聞こえてきた。
市場を出てからも港の周りを歩いた。
観光用なのか、海の生き物を紹介する看板があったり、小さな土産物屋が並んでいたりする。貝殻を使った置物や、魚の形をしたキーホルダー。誰かに買って帰る用事もないので、眺めるだけにした。
貴女がいたら、きっと何か一つくらい買っていただろう。「ねぇみて!これ可愛いよ」なんて言って既に購入済みの貝殻とシーグラスのネックレスでも見せてきたと思う。
港の端まで歩くと、防波堤の向こうに海が広がっていた。今日は波も穏やかだ。
数日間ずっと歩いていたせいか、海を見ると少しだけ立ち止まりたくなる。海は何度見ても同じように見えるのに、毎日少しずつ違っている。
「明日は海で遊んでみようかな」
海で遊ぶなんて、いつ以来だろう。泳ぐのか、砂浜を歩くのか、それともただ水に足を入れるだけなのか。何も決めていない。ただ、明日は今日より少しだけ夏らしいことをしてみてもいい気がした。貴女なら、もっと早く海に入っていそうだ。そう考えながら、しばらく波を眺めていた。




