流星群
八月十三日木曜日晴れ
目を覚ましたら昼を過ぎていた。
昨日は海を見たあとも歩き続けていたので、思っていたより疲れていたらしい。時計を見て少し驚いたが、急いで起きる理由もない。顔を洗って、適当に何かを食べる。外はまだ明るい。窓から見える空は昨日と違って晴れている。海へ行こうかとも思ったが、昼間の暑さの中を歩く気にはなれなかった。
夕方になってから宿を出る。日が傾き始めていて、昼間よりずっと歩きやすい。1個先の駅へ歩いて向かうことにした。次第に空の色が変わっていく。白かった雲が淡紅藤色に染まり、その下から灰色が濃くなっていく。建物の窓にも夕日が映っている。
海岸に沿って伸びる線路を辿るようにして一歩、また一歩と歩いた。昨日と変わりない波は、何度も寄せては、返す。
「海ってね、色んな生き物の死骸でできてるんだって。ただの塩水なのに匂いがするのはそのせいなんだって。じゃあさ!海の生き物からしたら陸も似たような匂いがしてるって感じるのかな?だって陸もそうでしょ?慣れると無くなっちゃうから」
一緒に海に行ったとき、たしか貴女はそんなことを言っていたが、そんなことはないと思う。陸でも死臭はちゃんとするからだ。会って話したいが、そうもいかない。
やっと駅が見えてきて、自販機で飲み物を買ってから電車に乗りこんだ。空が暗くなるにつれて、海と空の境目が分からなくなっていく。街の明かりが少しずつ目立つようになり、遠くを走る車のライトが線になって流れていく。あと一度乗り換えたら五駅乗ってやっと霊園に着く。もう少しだ。
乗り換え駅で一度下車したが、乗り換える電車は終電が行ってしまっていた。仕方なくまた線路に沿って歩く。
しばらくして、空を見上げた。
今日は流星群が見られる日だったらしい。そういえば宿のテレビペルセウス座流星群がどうのとか話をしていた気がする。流れ星なんて、見ようと思って見たことはない。だから少しだけ期待して、空を眺める。最初は何も見えなかった。星はたくさん出ているけれど、どれも動かない。目が疲れてきて、一度視線を海へ戻す。その時だった。空の端を、一つの光が走った。たったの一瞬。見間違いかと思って空を見上げたまま動けずにいると、少し離れたところでもう一つ流れた。それからまた一つ。今度はさっきより長く見えた。綺麗だと思った。
「これから燃え尽きて消えちゃう塵にお願いごとしたってきっと叶わないよ。私はいつでも自分にお願いごとしてるよ。自分なら絶対叶えてくれる、叶えられると思ってるから!でもやっぱりお願いしよ!そっちの方が楽しいじゃん」
あの時はぼんやりと一緒に眺めていただけだったが、お願いでもしてみようか……?そんなことを考えているうちに、また星が流れた。夜の海は静かだった。波の音の上を、遠くで車が走る音がしている。空に落ちていく光を見ながら、しばらく何も考えたくなかった。どれくらい経ったのか分からない。気がつくと、流星はもう見えなくなっていた。
歩こう。もう少しだ。そして今日泊まる宿を探さなくちゃいけない。夜の道を、ずっとずぅっと、歩いていく。海から離れるにつれて波の音が小さくなる。代わりに、知らない町の夜の音が少しずつ増えていった。




