第6話「見る側」
この国は、静かじゃない。
笑い声も、 怒鳴り声も、 全部、同じ通りに混ざっている。
「……あんた達」
「観光客じゃないでしょ」
ナナの言葉で、空気が少しだけ静かになった。
周囲の視線も変わる。
「“面白そう”から、“何者だ?”へ。」
レインはナナを見ていた。
ただの店員じゃない。
「人を見る時、服じゃなく、“反応”を見ている。」
シオンも気づいていたらしい。 小さく笑う。「へぇ」
ナナはパン袋を抱え直した。 「別に通報とかしないけど」
「この辺、変なの多いから」
「変なのって?」
アリアが聞く。
「詐欺師。 スリ。 偽芸人。 偽宗教」 「あと、アイドル気取り」
ノアが死にそうな顔になった。
「うっ……」
シオンが聞いた。
「お前のこと」
「はい……」
周囲からまた笑いが漏れる。
でも。 ナナの視線だけは笑っていなかった。
「それで?」
「どっから来たの」
一拍。
レイン達は答えない。
代わりに、 シオンが笑った。
「金稼げば文句無い国だろ?」
一拍。
「野暮なこと聞くなよ」
ナナはその沈黙を見て、
「……そう」 とだけ言った。
「別に詮索しないわ」
イリスが苦笑する。
「えっと」
「私の親戚なの」
「ふーん」 ナナはそれ以上深く聞かなかった。
でも、 完全には警戒を解いていない。
レインは思った。
この国の人間は、 “自由”だからこそ、 自分で危険を見分けようとしている。
オルディアみたいに、 “正しいもの”を上が決めてくれない。
ノヴァリスみたいに、 “不適切”を排除してもくれない。
だから、 見る。
自分で。 値踏みするみたいに。
「……疲れそう」 エイルが小さく呟いた。
ナナがちらりとエイルを見る。
「まぁね」
「ここ、ずっと人に見られる国だから」
一拍。
シオンはノアを一瞥してから言った。
「それは見ててよくわかったよ」
遠くで、 誰かの笑い声が響く。
楽器の音。 呼び込み。 怒鳴り声。 拍手。
全部が混ざっていた。
オルディアみたいな静けさはない。
ノヴァリスみたいな統一感もない。
でも、 確かに生きていた。
その時。
「ナナー!」 店の奥から大声が飛んだ。
「バンズ足りねぇ!」
「今行く!」
ナナは面倒そうに振り返る。 「あーもう……」
そして、 去り際。
レイン達へ小さく言った。
「変なことするなら他所でやって」
「でも」 一拍。
「腹減ってるなら来な」
「余り物くらいなら出せるから」
そう言って、 ナナは店の奥へ消えていった。
アリアがぽかんとする。
「……いい人?」
「多分」 レインは答える。
でも。
“見る目”だけは、 全然優しくなかった。
ナナは、 “優しい”より先に、 “ちゃんと見ている側”の人間です。
自由だからこそ、 誰も守ってくれない国でもあります。
次回も読んで頂けると嬉しいです。




