第5話「熱」
“価値がある”
その一言だけで、 人の視線も、空気も、熱狂も変わる
だからこそ、 “見られること”に価値が生まれる。。
「……囲まれてきてない?」
アリアが引きつった声で言った。
気づけば、通りの空気が少し変わっていた。
さっきまでは、ただ通り過ぎていた人間達が、 “見る理由”を持ち始めている。
「あの子モデル?」
「劇団系じゃない?」
「新しい店の宣伝かな」
人が止まり始める。
ノアは青ざめていた。
「す、すみません……!!」
「僕のせいで……!」
「分かってるなら静かにして」
ティアが即答した。
「ご、ごめんなさい……」
でも。 もう遅かった。
「ねぇ、笑った顔見たい」
「歌とか歌わないの?」
「名前なんていうの?」
言葉が飛んでくる。
アリアは完全に固まっていた。
「え、ちょ……」
「近い近い近い!」
エイルはその後ろで、 小さいぬいぐるみを抱きしめている。
人の熱。 視線。 期待。
それが、 少し怖かった。
シオンは周囲を見回しながら笑った。 「へぇ」
「何がおかしい?」
レインが聞く。
「空気」
シオンは人混みを見る。
「最初、誰も興味なかった」
「でも、一人が“価値がある”って騒いだ瞬間」
「周りまで見始めた」
一拍。
「人間って、自分で見つけるより」 「“人気らしい”で集まる方が早いんだ」
シオンは続けた。
「価値って空気を売ってる」
「まるで巨大な劇場だ」
レインは黙って周囲を見ていた。
確かに、 最初にアリアを見た時、
周囲は誰も反応しなかった。
でも、 ノアが騒いだ瞬間。
空気が変わった。
「……推しって怖っ」
アリアが真顔で呟く。
「推しが怖いんじゃない」
シオンは周囲の反応を眺めながら言った。
「人は、“価値がある”って空気に反応してるだけ」
「例えば」
「誰か一人が、“これは凄い”って騒ぎ始める」
「すると周りも気になり始める」
アリアが首を傾げる。
「えっ」
「それだけ?」
「それだけ」
「人は、自分の感覚より先に、“価値がある”って情報を見たがる」
「例え、それが偽物であっても」
「いや、違います!」
「変な例えしないで下さい!」
ノアが慌てる。
「推しはもっと神聖で――」
「似たようなものよ」
ティアは冷めた目で言った。
「裸の王様に拍手を送る群衆と一緒」
ノアはぐっと言葉を詰まらせた。
その時。
「はいはーい」
「どいてどいてー」
「通行の邪魔だよー」
人混みをかき分けながら、 一人の女性が近づいてくる。
金髪。 高い位置で結ばれたポニーテール。 片手には、大量のバンズ。
「道塞がないでよ」
「店の前なんだけど」
周囲の若者達が、
「あ、ナナだ」と少し下がる。
女性はアリア達を見る。
そして、 ノアを見た。
「あんたまた?」
「今度は何?」
「ち、違っ……」
「違わないけど……!」
ナナは呆れた顔をした。
「また女の子追い回してんの?」
「違うんです!!」
「今回は本物なんです!!」
「毎回言ってるそれ」
周囲から笑いが漏れる。
ノアは真っ赤になった。
「うっ……」
アリアは小声でレインに聞いた。 「……誰?」
「さぁ」
ナナはため息をついたあと、 改めてアリア達を見る。
その瞬間。
少しだけ、 目が止まった。
「……あんた達」
「観光客じゃないでしょ」
空気が、 少し変わる。
シオンの目が細くなる。
レインは、 ナナの“見る目”に違和感を覚えていた。
新たな登場人物。
ナナ・クラウディア(21) バーガーショップで働く、明るく人懐っこい女性。 細かいことは気にしない、空気を軽くするタイプ。
ナナ・クラウディア登場回でした。
リベルタス側の「普通」を知っている人間です。
次回も読んで頂けると嬉しいです。




