第7話「余り物」
“価値”が集まる国で、 レイン達は初めて、 「働く熱」に触れていきます。
ハンバーガーショップの奥は、熱かった。
焼き上がったバンズの匂い。 鉄板の音。 大きい声。 笑い声。
表の通りとは違う、 “働く音”が響いている。
「うわ……」 アリアが目を丸くした。
「思ったより戦場」 シオンが笑う。
「戦場だね」
「うちのパン屋とは全然違う」
イリスが言った。
ナナは慣れた様子で言った。
「昼前が一番地獄なの」
ちゃんと、店を回している。
パンを運ぶ者。 肉を焼く者。
客をさばく者。 誰も止まらない。
その中央で、 ナナが怒鳴っていた。
「そっち先!」
「焼けたなら並べて!」
「切った野菜そこ置かない!」
「ポテトとナゲット揚げて!」」
「パティ足りない!」
「シングルとダブルの分先!」
「あと誰か表行って!」
さっきまでの気だるそうな空気が消えている。
レインは少し驚いていた。
ちゃんと、 回している。
人も。 空気も。 店も。
「ナナー!」 奥からまた声が飛ぶ。
「新しい客流れてきた!」
「今行く!」
ナナはトレイを持ったまま、 レイン達を見る。
「そこ邪魔」
「潰されたい?」
「怖」 アリアが即答した。
周囲から笑いが漏れる。
ナナは呆れた顔をしたあと、 壁際を顎で指した。
「そこ座ってて」
「余りなら後で持ってく」
エイルは小さく頭を下げた。
「……ありがとうございます」
ナナはじっと見た後すぐ視線を戻した。
でも、 何も言わずに戻っていった。
レイン達は壁際へ移動した。
古い木箱。 積まれた袋。 小麦粉の匂い。
店の裏側。
表より汚くて、 騒がしくて、 でも、 妙に生きていた。
「……なんか不思議」 アリアが呟く。
「何が?」 シオンが聞く。
「みんな余裕なさそうなのに」
「楽しそう」
その言葉に、 シオンが笑う。
「金になるからだろ」
「夢がない」 アリアが嫌そうな顔をする。
「でも本当」 ティアがぼそっと言った。
一拍。
「この国」 「欲しいものに正直」
レインは黙って店内を見る。
客の笑顔。 店員の怒鳴り声。
慌ただしい音。
全部、 “必要”で動いていた。
その時。
「はい」 声が落ちてきた。
ナナだった。
木皿の上。 少し形の崩れたバーガー。 焼きすぎたポテト。 切れ端の肉。
“売り物にならなかったもの”。
「余り物」 ナナはそう言った。
でも。
漂う匂いだけで、 腹が鳴りそうだった。
アリアが目を輝かせる。
「うわ……!」
エイルも小さく息を呑む。
ノヴァリスでは、 全部形が均一だった。
オルディアでは、 そもそもこんな匂いがなかった。
でもここでは、 崩れた物ですら、 熱を持っていた。
オルディアやノヴァリスでは、 “揃っていること”が正しさでした。
でもリベルタスでは、 崩れていても、 余っていても、 価値になる。
国によって価値観の違いを書きたかったので、こうしました。
次回も読んで頂けると嬉しいです。




