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第8話「何もしてないと思った?」

この国には、娯楽がない。

だから――誰も「ヒーロー」を知らない。 

笑うことも、物語も、すべて禁じられた世界で。


ひとりの少年が、それを作ろうとしていた。


これは、“最初のヒーロー”が生まれる話。

森の中の古い小屋。

木のテーブルの上には、紙が何枚も広げられていた。



――“形”になり始めていた。



その中央に置かれているのは――カイが描いた一枚の絵。



丸いツルンとした顔。

白いからだとマント。

『ツルリマン』

その文字が、堂々と描かれている。

「ポーズはこうだ!」

レインはシャキーンとポーズをとった。



マントがひらりと揺れる。

カイがため息をつく。

「はぁ……お前、恥ずかしいとかそういう言葉知らないのか?」



「ヒーローだぞ!何が恥ずかしいんだ?」

レインは堂々としていた。



ミレアが目を輝かせる。

「かわいい!」

サリアも笑う。

「ほんとだ。ちゃんとヒーローになってる」



カイは腕を組んだ。

「当たり前だろ。誰が描いたと思ってる」



レイン

「でも名前はダサい」

カイ

「そこは否定しねぇのかよ」



レインは絵を見つめたまま言った。

「次は物語だ」

三人が顔を上げる。

レインは紙を一枚取り、机に置いた。

「ヒーローには敵が必要だ」



カイがうなずく。

「まあ、そうだろうな」

ミレアがすぐに手を挙げた。

「トマト!」



全員がミレアを見る。

「なんでトマト?」

サリアが聞く。

ミレアは真面目な顔で答えた。

「丸いから、赤丸」



数秒の沈黙。

レインはノートに書いた。

『敵:トマト』

「決定」

 


カイが眉をひそめる。

「決定早すぎだろ」



「丸い」

レインは言った。

「ツルリマンも丸い。対比になる」



カイは腕を組んだまま呟く。

「……なんかそれっぽいな」



ミレアは嬉しそうだった。

「トマト怪人!」



サリアがくすっと笑う。

「悪そうな顔のトマト描ける?」



カイは鼻で笑った。

「誰に言ってんだ」



紙を引き寄せる。

鉛筆がさらさらと走る。

丸い形。

怒った目。

ギザギザの口。

数秒後。



紙が机に置かれた。

そこには――

真っ赤なトマトの怪人。

ミレアが笑う。

「怖い!」



サリアも笑う。

「でもちょっとかわいい」

 


カイは得意げだった。

「だろ」

レインはその絵を見ながら言った。

「物語を作る」

ノートを開く。

「最初は敵」



サリアが首をかしげる。

「ヒーローじゃないの?」



レインは首を振った。

「問題が先。ヒーローは後」



カイが少し感心した顔をする。

「なるほどな」

レインはノートに書いた。

『一枚目

トマト怪人』



ミレアが聞く。

「何するの?」



「困らせる」

レインは答えた。

「人を」

サリアが笑う。

「トマト投げるとか?」



カイが吹き出す。

「それ悪いのか?」

レインは次の行を書く。

『二枚目

ツルリマン登場』



ミレアが両手を上げる。

「ツルッ!」

サリアが笑った。

「それいい!」

カイが言う。

「ツルって滑るんだろ?」



レインは首を振る。

「違う。転ばせる、それが能力だ」

ミレアが楽しそうに言う。

「ツルン!」

レインはさらに書いた。

『三枚目

ツルン』

『四枚目

勝利』

カイが覗き込む。

「短くね?」



「子供だからだ」

レインは言った。

「長いと飽きる」



サリアがうなずく。

「確かに」

ミレアは机に身を乗り出した。

「早く見たい!」



レインは顔を上げた。

「語り手はサリア、君だ!」

サリアは驚いた。

「えっ?私?」

「あんなセリフ言うの?恥ずかしいんだけど」



カイが言う。

「大丈夫だ、サリアさんならできるだろ」



サリアは頬を膨らませた。

「そもそも言い出したレインがやるべきでしょ」

レイン

「俺は陰キャだ!無理だ!」



カイ

「自信満々に言うとこじゃねぇ」



ミレアは手を挙げる。

「じゃあ私がやるー」



レインは首を振った。

「ミレアは虫担当だろ」

カイは思った。

(評価そこなんだ)



ミレアは少し不満そうだったが、すぐに言う。

「じゃあ子供集める!」

「呼べるのか?」

カイが聞く。



「呼べる!」

「森の子たちは知ってるから」

レインはノートに書いた。

『サリア:語り』

『ミレア:呼び込み』

『カイ:絵』

『レイン:構成・観察』

そして書き足す。

『目的:笑い』

ノートを閉じる。



ミレアがぴょんと跳ねた。

「楽しみ!」

カイは肩をすくめる。

「……でもさ」

「ヒーロー知らない子供が見て、本当に面白いのか?」



レインは頷く。

「いける」



「その自信はどこからくるんだよ」

カイは呆れた。



「それにどうやってやるんだ?」

サリアも言う。

「神官に見つかったら大変よ?」



レインは考える。

(見つからない場所――)

ミレアが言った。

「あっ、森の広場なら?」



サリア

「外から見えない場所ね」

カイ

「確かにあそこなら大丈夫か」

レイン

「そこにしよう」

少しだけ間。

(……でも)

木々の配置が頭に浮かぶ。

外からは見えにくい。

中は、逃げ場が少ない。



胸の奥がざわついた。

(……なんだ、これ)

木々に囲まれた景色が、急に息苦しく見える。

(まるで、檻だ)

(――見つかったら、“どうされる”?)

レインは小さく首を振った。

(……考えすぎか)

「まぁいい」

「場所があるだけ十分だ」


ツルリマン、誕生です。

そしてまさかの敵はトマト怪人。

ただの遊びのはずなのに、 少しずつ「形」になっていくのがこの話のポイントです。

そして最後に出てきた“森の広場”。


あそこ、ちょっとだけ違和感を仕込んでます。 (気づいた人はかなり鋭い)


次回はいよいよ紙芝居の初披露です。

「笑い」がどうなるのか、見てほしい。

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少しずつ、三カ国の全貌が見え始める。 『笑い』『選別』『価値』が交差する異世界ファンタジー。 (※執筆・画像すべてスマホ1台で制作しています)
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