表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/89

第7話「ツルリマン誕生」

笑いがない、それが「存在しない」のか、

それとも「忘れられている」だけなのか。

まだ、誰も知らない。

これは、ひとつの小さな発見から始まる話。

森の中の小屋で、ただの“ゆでたまご”を見て。

そして、ひとつの名前が生まれる。

――ツルリマン。

森の中の古い小屋。

木のテーブルを囲んで、四人は座っていた。

外では風が木の葉を揺らしている。

――何かが、引っかかっていた。

小屋の中には、音がなかった。



レインはノートを開いたまま、腕を組んでいる。

「……娯楽を作る」

ぽつりと呟いた。

サリアが首をかしげる。

「それ、まだ考えてるの?」



「当然だ」

レインは真顔だった。

「笑いは確認した。だが、それを“作る方法”が分からない」



カイが机に肘をつく。

「で? どうすんだよ」



レインは黙る。

ノートには細かい字が並んでいた。

『笑い/原因/観察/再現方法』

――そのとき。



「おやつ持ってきたよ」

ミレアが布袋を机に置いた。

中からころん、と丸いものが転がる。

「ゆでたまご」



カイが半目になる。

「森で拾ったやつだろ、それ」



「大丈夫。たぶんニワトリ」



「“たぶん”かよ」



サリアがくすっと笑う。

「でもおいしそう」



ミレアは嬉しそうに卵を叩いた。

コン、と音がして、殻にヒビが入る。

ぺり、ぺり。

少しずつ剥がれていく。



レインは、その様子をじっと見ていた。

殻が外れて――

つるん。

白い卵が現れる。



ミレアの顔がぱっと明るくなる。

「見て! ツルンってむけた!」



サリアが笑う。

「ほんとだ、きれい」



カイはため息。

「それそんな嬉しいか?」



ミレアはもう一口食べていた。

もぐもぐと頬を動かしながら、まだ笑っている。

話は聞いていない。

「きれいにむけると嬉しい」



――そのとき。

「……ツルン」

レインが呟いた。



三人が見る。



もう一度。

レインはノートを引き寄せた。

カリカリと書く。

大きく――

『ツルン』 



カイ

「……は?」



レインが顔を上げる。

その目が、わずかに光っている。

「ヒーローだ」



沈黙。

「……は?」 



ミレアはまだ卵を食べている。

もぐもぐしながら首をかしげた。

「ヒーローってなに?」



レインは言葉を選ぶ。

「強い存在だ。困っている相手を助ける」



サリア

「……空想の話?」

「図書室で見た」

サリアは口元を押さえる。



――肩が震えている。

「……っ、ちょ……待って……」

笑いをこらえきれていない。

「ツ、ツルンって……っ」

一度息を吸う。



「っ、あはは……!」

吹き出す。

止まらない。

机に手をつく。

肩が上下に揺れる。

「っ……ふ、ふふ……っ、なにそれ……!」



カイが顔をしかめる。

「どこが面白ぇんだよ」

「笑い過ぎだろ」



サリアは答えられない。

笑いながら首を振るだけだった。



レインは、その様子を見ていた。

(まただ)

あの笑い方。

作っていない。



(条件は――単純)

(視覚と音)

(予測外の一致)

カリ、とペン先が止まる。



(再現、可能)

「調べた。娯楽を」



レインは立ち上がった。

「ツルンと滑る」

手を振る。

「敵が転ぶ」

反対に振る。



「倒す」

カイ

「どこがヒーローだよ」

レインは卵を指さした。

「顔はこれ」

三人「?」

「体もマントも白」

カイ

「なんでだよ、真っ白だな」



レイン

「……なんとなくだ」



カイ

「適当すぎるだろ」

レインはノートを見せた。



『ツルリマン』

一瞬の静寂。

――次の瞬間。

サリアがまた吹き出した。

「っ、やめて……っ」

笑いながら机に突っ伏す。

呼吸が乱れている。



ミレアも笑っている。

でも手は止まらない。

卵を食べながら、ただ楽しそうに笑っている。



カイだけが腕を組んだまま。

「だっせぇ」



空気が、少しだけズレていた。

レインはサリアを見る。

(継続時間、長い)

(周囲への伝播あり)

(抵抗不能) 



(――これだ)

レインは言った。

「これを作る」



カイ

「は?」


「子供に見せる。反応が見たい」

サリアが息を整えながら顔を上げる。

まだ少し笑っている。

「どうやって……?」

――沈黙。

レインの手が止まる。

「……方法がない」



カイ

「最初から問題だらけだろ」



ミレアが卵を転がす。

ころころころ。

「演じる?」

サリアが笑う。

「レインがツルリマン?」



カイが鼻で笑う。

「無理だろ」

レインは真顔。

「演技は難しい」



ミレア

「うーん……」

サリアがふと呟いた。

「順番に見せればいいのに」



レイン

「?」

「さっきの卵みたいに。少しずつ」



レインの動きが止まる。

「……一枚」



カイ

「何が?」

レインは紙を見る。

「絵を、一枚ずつ見せる」



サリアがうなずく。

「横で話すの」



ミレア

「それならできる!」



カイ

「誰が話すんだよ」

三人の視線。

レイン。

少しの沈黙。

「……俺だ」



カイ

「無理だろ」



サリア

「声小さいもん」



「練習する」

レインはノートに書いた。

『紙芝居』

見せる。

ミレアの目が輝く。

「いい!」

サリアも笑う。



まだ少しだけ余韻が残っている。

「楽しそう」

カイだけが腕を組んだまま。

「くだらねぇ」

「それに怒られるぞ」



レインは紙を取る。

「わかってる。でも何でダメなのか、知りたいんだ」

「だからまず作る」

鉛筆を走らせる。

さらさら――

数秒後。

紙を置く。

三人がのぞき込む。

沈黙。

カイ

「……なんだこれ」



ミレア

「鳥?」

サリア

「っ……ふふっ」



レイン

「ツルリマンだ」

カイは顔を覆った。

「下手すぎるだろ」

「ただの丸だろ、それ」

 


レインは紙をカイの前に置く。

「描いてみせてくれ」

カイ

「は?」

「お前なら、描ける」



ミレアも乗る。

「カイやろうよ」

数秒の沈黙。

カイはため息をついた。

「……しょうがねぇな」



さらさら――

紙が置かれる。

そこには

丸いツルンとした顔。

体もマントも白い。

『ツルリマン』



ミレア

「かわいい!」

サリア

「ちゃんとヒーローだ」



カイ

「……やっぱだせぇな」



レインは、その絵を見つめていた。

(……いける)

さっきの笑い。

今の反応。

(再現できる)

レインは静かに言った。

「……実験する」

三人が見る。



「子供を笑わせる」

小屋の中の空気が、少しだけ変わった。

レインはノートを開く。

『娯楽制作

 紙芝居

 ツルリマン』

その下に書き足す。

『実験開始』


ここまで読んでくれて、ありがとう。

今回はついに、最初の“形”が生まれました。

レインの中にあったものが、言葉と形になった回です。

――ツルリマン。

正直、かなり変なヒーローです。


でも、それでいいのかもしれません。

大事なのは、「どう見せるか」。

そして――

本当に、人は笑うのか。


次は、初めての“見せる側”へ。

レインの実験が始まります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少しずつ、三カ国の全貌が見え始める。 『笑い』『選別』『価値』が交差する異世界ファンタジー。 (※執筆・画像すべてスマホ1台で制作しています)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ