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第6話「子供の娯楽を作る」

この国には、娯楽がある。

音楽も、映像も、遊びもある。

だが――そこに「笑い」はない。

笑っているのに、どこか浅い。

すぐに消える。

子供は、その中に入ることすら許されない。

それが本当に楽しいのか。

レインたちは、確かめに行く。

森の朝は静かだった。

――昨日の“笑い”だけが、残っていた。

鳥の声が聞こえる。

風が木の葉を揺らし、柔らかな光が地面に落ちていた。



その中で――レインだけが考えていた。

(昨日の笑い)

頭の中に残っている。

サリアの声。

「あはは」

あの笑い方。



クスクスとは違う。

作ったようなものでもない。

自然に出ていた。

レインはノートを開いた。

そこには、いつもの細かい文字が並んでいる。



ページの端に書き足す。

『笑い

原因

不明

観察』

少し考える。

それから顔を上げた。



「……調べる」

近くで虫を見ていたミレアが首をかしげた。

「なにを?」



レインは答える。

「娯楽」

カイが眉をひそめた。

「ゴラク?」



サリアも不思議そうな顔をする。

「それって何?」

レインは少し考えた。

言葉を探す。

それからゆっくり言う。

「人を……笑わせるもの」



三人は顔を見合わせた。

ミレアが言う。

「じゃあ作ってみたい」

レインの動きが止まった。

「……作る?」



ミレアはうなずく。

「笑うと楽しくなる」

サリアも笑う。

「うん、確かに」



カイは腕を組んだ。

「嫌だね。俺はお前らと違って忙しいんだ」

「えぇー、やろうよ」

ミレアがカイの腕に手を回す。



カイの肩がぴくっと揺れた。

「……まぁ、そこまで言うなら手伝ってやらなくもない」

ミレアがにやっと笑う。

「やったー!カイって触るとすぐ手伝ってくれるね!」



カイ

「違う!!」

サリアが吹き出す。

「あははは!今の完全にそうだったよ!」

レインは静かにうなずいた。

「再現性ありそうだな」

カイ

「検証するな!!」



レインはノートに書く。

『かまってちゃん』

カイ

「おいっ!だから書くなって言ってるだろ!」

レイン

「そうであったか」

ノートを開き、訂正して書き直す。



『カイはミレアにほの字』

「やめろ!」

カイは小声になる。

「ミレアに見られたらどうしてくれるんだ?」

「心配は無用だ。俺は口は固い」

 


「いや紙に書いてるだろ!」

カイはため息をついた。

「こいつと話してると疲れるな……」



「ほら行こう」

ミレアがカイを引っ張る。

「仕方ないな」

カイは髪をかき上げた。



レインは三人を見て、小さく言った。

「……観察対象が増えたな」

ノートを閉じる。

「……娯楽探しだ」

立ち上がる。

「行くぞ」

森を抜けると、街の通りに出た。

石畳の道。

人の声。

並んだ店。

ミレアがきょろきょろと見回す。

「人いっぱい」



カイは腕を組む。

「森より賑やかだな」



そのとき。

サリアが足を止めた。

「ねえ」

指をさす。



「なにあれ?」

建物の前に人が集まっていた。

大きなガラスのドア。

その向こうに光が見える。



ミレアが顔を近づけた。

「わあ」

建物の前に人が集まっていた。

大きなガラスのドア。

その向こうに光が見える。



ミレアが顔を近づけた。

「わあ」

中では大人たちが椅子に座っていた。

前には大きな白い幕。

そこに映像が映っている。



人が走る。

転ぶ。

また立ち上がる。

客席から笑い声が上がった。

「ははは!」

大きい。だが――すぐに止む。

「……止まった」

(……浅い) 



カイも覗き込む。

「なんだこれ」

少し離れた場所から音楽が聞こえた。

別の建物。

中では人が歌っている。



大人たちが手を叩いていた。

さらに向こうの店では、男たちが棒で球を打っている。

カツン。

カツン。

歓声が上がる。



ミレアは不思議そうに言った。

「みんな楽しそう」

そのとき。

店の男がこちらに気づいた。

「子供は入れないぞ」



レインは、ほんのわずかに眉をひそめた。

ミレアが一歩前に出る。

「ちょっと見るだけ……」



男はドアを強く押し返した。

ガタン、と鈍い音がした。

「ダメだって言ってんだろ」



一瞬、周りの大人たちの視線が集まる。

ミレアの動きが止まった。

男はガラスの横の札を指さす。

「二十歳以上って書いてあるだろ?」

「さっさと帰りな」



サリアが聞いた。

「どうして?」

店の人が出てきて言う。

「こらこら、子供の遊ぶとこはないからな」

「娯楽は大人のもんだ」

「子供は勉強してろ」

そう言ってドアを閉めた。



ミレアはガラスを見つめたまま言った。

「子供はダメなんだ」

「大人って勝手だな」

カイは眉をひそめる。

「なんで子供はダメなんだ?」 



サリアは少し考えてから言った。

「父から聞いたことがあるわ。

五十年くらい前は、子供にも娯楽はあったって」



レインは黙ったまま、窓の向こうを見ていた。

店の中では、大人たちが楽しそうに笑っている。

ミレアがぽつりと言う。

「……歌ってる」

ライブハウスの中では、人が歌っていた。

大人たちが手を叩いている。



ミレアも真似して手を叩く。

パン。パン。

サリアも笑いながら真似した。

「こんな感じ?」



カイは少し恥ずかしそうに言う。

「やめろよ」「早く行こうぜ」

「誰かに見られたら怒られるぞ」

でも、少しだけリズムを取っている。

ミレアは次の店を見る。



ビリヤード。

地面に落ちていた枝を拾った。

ミレアがマネをする。

「こう?」

石を突く。



カイは呆れたように言った。

「はぁ、お前ら注意されたのに、気にしないんだな」



レインはそれを見ていた。

ノートを開く。

書く。

『娯楽

模倣

可能』

レインは、再びガラスの向こうを見る。

笑っている。

声を上げて。



体を揺らして。

でも、すぐ止む。

(目が笑ってない)

(……同じ顔が、できない)




サリアの笑いが頭に浮かぶ。

「あはは」

(あれと、同じじゃない)

 


レインは静かに言った。

「三人は、小さい頃……街に来たことはないのか?」

ミレアとカイは顔を見合わせる。

 


ミレアが言った。

「子供は遊ぶところないし、危ないから、街に行かなくていいって」

カイもうなずく。

「あぁ。それに街に出なくても、必要な物は揃うしな」



レインはサリアを見る。

「サリアは?」

サリアは少し考えて言った。

「私は来たことある。

でも……こういうものだと思ってた」



レインは街を見回した。

並んだ店。

人の流れ。

子供の姿はほとんどない。

「……そうか」

カイが聞く。

「何がだ?」



レインは少し考えてから言った。

「店と木々の配置だ」

「子供は街まで出なくても、学園を出たら必要な物が買えるように、なってる」



ミレアが首をかしげる。

「それ変なこと?」「便利でしょ」

サリア

「親のいない子は学園内に寮があるから」

「出たら、必要な物はすぐ買えるようになっていると神官に聞いたわ」



レインは少し考えてから言った。

「店と木々の配置だ」

「子供は街まで出なくても、学園を出たら必要な物が買えるように、なってる」



ミレアが首をかしげる。

「それ変なこと?」

「便利でしょ」



サリアも頷く。

「親のいない子は学園内に寮があるから」

「出たら、必要な物はすぐ買えるようになっていると神官に聞いたわ」



レインは少し黙った。

「……街には大人の娯楽がある」

「でも、子供は入れない」



視線が、木々の向こうへ向く。

「……じゃあ、子供は」 

 


一拍。

「何を見て育つ?」

誰も答えない。



レインは小さく呟いた。

「娯楽は子供を堕落させる」

少しだけ間を置いて、

「……本当に、それだけか?」



ノートを開く。

『街

子供

来ない構造』

少し考える。

書き足す。

『理由

大人

笑い方

不明』

沈黙。



そのときミレアが言った。

「でも」

三人が見る。

「本当に楽しいのかな」

サリアも静かに頷く。

「うん……ちょっと変だね」

カイは肩をすくめる。

「まあ、付き合いで笑ってる感じだな」

サリアが空を見て言う。

「早く帰らないと、門閉まるよ」



レインはノートを開いた。

『子供の娯楽 作る』

その文字を、じっと見つめる。

「……で」

「何を作る」



ミレアがすぐに手を挙げた。

「楽しいのがいい!」

カイが呆れたように言う。

「それが分かれば苦労しねぇだろ」

レインは少し目を細めた。

(昨日)

石畳の道。



一人の男が、足を滑らせた。

「うわっ」

そのまま転ぶ。



周りの大人たちが、くすっと笑った。

サリアが吹き出す。

「あはは」「本当に滑って転ぶ人いるのね」

レインは、その様子を見ていた。



サリアが思い出したように言う。

「ああ……あれ?」



レインは頷く。

「――再現する」

レインたちは、初めて「娯楽」に触れた。

だが、それはどれも“本物”とは言えなかった。


笑っているのに、笑っていない。

楽しそうなのに、どこか空虚。


そして何より――

子供は、その中に入ることすら許されていない。

ならば。

無いなら、作るしかない。

何が「面白い」のか。


それを、自分たちで確かめる。

レインは、静かに目を細めた。

――まずは、一つ。

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少しずつ、三カ国の全貌が見え始める。 『笑い』『選別』『価値』が交差する異世界ファンタジー。 (※執筆・画像すべてスマホ1台で制作しています)
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