表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/81

第5話「四人、まだ他人」

レインは、“クスクス”ではない笑いに出会う。

それは観察では、まだ捉えきれないものだった。

木の向こうで、カイが必死に走っていた。

「来るなああ!!」



その後ろを、ミレアが追いかけている。

「ほら!かわいいよ!」「毒は無いのに」

手には小さな虫。



カイは全力で逃げていた。

「近づけるな!!」



レインは静かに呟く。

「凄い速さだ」

「……人間は、あんな速度で走れるのか」

そしてノートを開いた。

『人間

逃走

速い』

カイは走りながら、その様子を見て叫んだ。

「書いてないで助けろよ!!」



その少し離れた場所で。

赤い髪の少女が、お腹を抱えて笑っていた。

「あはははっ!」

涙を拭きながら、まだ笑っている。

「あはははっ!すごい逃げてる!」

森の静かな空気に、笑い声が広がった。



レインの手が止まる。

(……?)

胸の奥が、ざわつく。

(違う)

(クスクスじゃない)

少女はまた笑った。

「あはははっ!」

その瞬間。



頭の奥で、何かが弾けた。

――本。

――白いページ。

――小さな四角い枠。

その中で、誰かが転んでいる。

「あはははっ!」



――体を仰け反らせる。

――腰に走る痛み。

「っ……!」

――道路。

――クラクション。

――強い光。



レインは目を見開いた。

「……なんだ、今の」

胸が、少し速く打っている。



赤い髪の少女は、まだ少し笑いながらこちらに歩いてきた。

「あはは……あー、笑った」

涙を拭きながら、レインとミレアを見る。

「君たち、何してるの?」



サリアが笑ったあと。

レインは少し考えた。

(今、聞くべきか)

サリアを見る。



楽しそうに笑っていた。

レインは視線を外した。

(……いや)

ノートを開く。

『笑い

原因

不明

……制御できない』

(まず観察だ)



ミレアが答える。

「さっきツバメ見つけた」



少女は上を見上げる。

「ツバメ?」

ミレアは木の枝を指さした。

「ここ」



少女は近づいて巣を覗き込む。

「おお、本当だ」

ヒナが口を開けている。

「ピーピー」

少女は少し笑った。

「かわいい」



レインはその様子を観察してノートを開いた。



少女はちらっとノートを見る。

「なにそれ」

レインは顔を上げた。

「研究」

少女は少し考えた。

「……変な子」



遠くから声が聞こえた。

「もういないか……?」

カイだった。



慎重に木の陰から顔を出す。

「虫、どこいった」



ミレアが言う。

「もう逃げたよ」



カイは安心したように息を吐いた。

「よかった……」

そして赤髪の少女に気づく。

「あ」



少女はニヤッと笑った。

「さっきすごい逃げてたね」



カイは顔を赤くする。

「逃げてない!運動だ」



ミレアが言う。

「逃げてたよ」「昆虫の可愛さを全然わかってないんだから」



レインはノートを見る。

『カイ

逃走

高速』



カイはレインを指差した。

「それ書くな!」



少女はまた笑う。

「あはは!」



カイは不満そうな顔をした。

「なんでそんな笑うんだ?」

少女は答える。

「だって面白いもん」



カイはため息をついた。

「俺は面白くない」



ミレアはカイを見る。

「でも速かった」



「まあな」

カイは少し誇らしそうに言う。

「俺、足速いから」



レインはノートに書く。

『カッコつけ

イケメン

サラサラヘア』

カイはノートを覗き込んだ。

「書くな!!」



少女はまた笑う。

「あはははっ!」



森に笑い声が広がる。

レインはその声を聞いていた。

(この笑い方は)

さっき聞いた。

クスクスとは違う。

自然に出ている。

レインはノートを開く。

『笑い

自然

強い』



少女はそれを見て言った。

「ねえ」



レインが顔を上げる。

「名前は?」

「レイン」

少女は頷く。

「私はサリア」



それからミレアを見る。

「あなた達は?」



ミレアは手を上げた。

「私はミレア!カイとは小さい頃からの幼なじみなんだよ」



カイは腕を組む。

「……まあな」

「俺はカイだ」

 


サリアは三人を見回した。

それから、また少し笑った。

「なんか変な集まりだね」



ミレアは嬉しそうに言う。

「友達だね!」

サリアは少し考えた。

それから笑う。

「あはは」

「いいね、それ」



森の風が吹く。

葉っぱが揺れる。

レインはノートを閉じた。

(友達)

その言葉も、少しだけ気になった。

(……それも、必要なものか)


読んでくれてありがとう。

今回、レインの中で「笑い」と「記憶」が少しだけ繋がりました。


でもまだ、それが何なのかは分かっていません。

そして出てきた「友達」という言葉。

これもまた、この国では少し曖昧なものです。


次回、関係性が少しずつ形になっていきます。

レインの“観察”も、少し変わり始めます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少しずつ、三カ国の全貌が見え始める。 『笑い』『選別』『価値』が交差する異世界ファンタジー。 (※執筆・画像すべてスマホ1台で制作しています)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ