第1話 地下の道
第二章「ノヴァリス編」まで読んで下さった方、本当にありがとうございます。
娯楽を禁じられた教育国家オルディア。
選別国家ノヴァリス。
そこから逃げ出したレイン達は、“自由の国”リベルタスへ辿り着きます。
ですが、その国にもまた、“価値”による選別が存在していました。
第三章「リベルタス編」開幕です。
古い家の窓から、朝の光が少しだけ差し込んでいた。
パンの焼ける匂いがする。
「……いい匂い」
アリアが布団の中で呟いた。
「そりゃ私が作ったパンだからね」
イリスは笑いながら鍋を置く。
小さな木の机。 黒パン。 薄いスープ。 少しだけ焦げた卵。
豪華ではない。
でも、温かかった。
エイルは両手で器を持ちながら、小さく湯気を見つめている。
ティアはまだ眠そうに目を擦っていた。
シオンは窓の外を眺める。
「静かだね」
「朝はこんなものだよ」 イリスは肩をすくめた。 「夜の方がうるさい」
レインはパンをちぎりながら聞く。 「……今日は店、開けるのか?」
「今日は休み」 イリスは即答した。
一拍。
「せっかくだし」
「リベルタス、案内しようか」
アリアが即座に顔を上げる。
「行く!」
「早い」 ティアが呆れたように言った。
「皆が慌てて食事を始め、支度をする。」
「え、ちょ、待って」 アリアがパンを咥えながら立ち上がった。
エイルは目をぱちぱちさせる。 「わ、私も早く支度しなきゃ」
イリスは苦笑して立ち上がった。
「じゃあ皆、準備して」 一拍。
「……そんな慌てなくても大丈夫だから」
そう言って、居間の隅へ向かった。
古い絨毯をめくる。
その下。 床板に、金具が付いていた。
レインはじっと見ていた。
「……そこ?」
「うん」
イリスは慣れた手つきで床板を持ち上げた。
ぎぃ、と音が鳴る。
下には、 暗い石階段が続いていた。
冷たい空気が上がってくる。
湿った匂い。
どこか、水の音も聞こえた。
アリアが目を丸くする。
「家の中に!?」
「ローヴェン村は大体こんな感じだよ」 イリスは普通に返した。
「昔の搬送路」
「今は貯蔵庫代わりだけどね」
「……随分長そうだ」
シオンは地下へ続く暗闇を見た。
「早めに金作らないとな」
「毎回これ移動は、さすがに面倒」
「歩いて四十分くらいかな」
「途中で休める場所もあるよ」
ティアが眉をひそめる。
「そんな距離を毎日?」
「正式な通行証買うより安いから」
イリスはあっさり言った。
誰も、すぐには返さなかった。
レインは暗い階段を見下ろす。
石壁。 消えかけた古い番号。 木箱の跡。
ここを、 何人通ってきたんだろう。
そんなことを思った。
「朝なら人少ないし」
イリスはランタンへ火をつける。
橙色の光が揺れた。
「帰りだけ気をつけてね」
「帰り?」 エイルが小さく聞く。
「地下、夜は閉じるから」
一拍。
アリアが固まる。「え」
「閉じ込められるの?」
「リベルタスで寝るだけだよ」
イリスは軽く返した。
「お金あるならね」
静かになった。
遠くで、水滴が落ちる音だけが響いていた。
地下通路、価値で動く国、人の多さ、自由の空気――オルディアともノヴァリスとも違う世界を書きたくて作った章になります。
ただ、この国も“自由なだけ”ではありません。
これまで積み重ねてきた「ズレ」や「選別」の意味も、少しずつ形を変えていきます。
ここから新キャラ達も本格的に登場していきますので、引き続き読んで頂けたら嬉しいです。




