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第2話 自由の匂い

地下に続く道。 パンの匂い。 そして、騒がしい朝。

静かだった世界とは違う“自由の国”が、 少しずつ姿を見せ始めます。

湿った地下道を、六人は歩いていた。

石壁には古い傷が残っている。



崩れかけた木箱。 使われなくなった樽。 途中で塞がれた横道。

ランタンの火だけが、暗闇を揺らしていた。



「思ったより長い……」

アリアがぼそっと呟く。



「だから正式ルート使う人の方が多いんだよ」

イリスは前を歩きながら返した。 「お金あるなら」


「はぁ」

「またそれ」

ティアがため息を吐く。



シオンが壁へ軽く触れる。

「でも管理はされてる」

「完全放置じゃないね」



レインも気づいていた。

石壁の一部。 小さな刻印。

数字と線。

新しい。

誰かが、今もここを使っている。



「地下って誰が管理してるの?」

エイルが聞く。



「色々」 イリスは曖昧に返した。

「昔は国だったらしいけど」

「今は商人とか運搬屋とか」

「あと、勝手に使ってる人達」



「適当すぎない?」

アリアが眉をひそめる。



「それが」

「リベルタスだし」

それだけで説明が終わった。



しばらく歩く。

遠くから、 何かを引きずる音が聞こえた。

全員の動きが止まる。

ランタンの火が揺れる。



暗闇の奥。

誰かいる。

レインは小さく息を止めた。



その時。

「朝から暗い顔してんなぁ」

間延びした声が響いた。



奥から現れたのは、 大きな荷車を押す男だった。



無精髭。 帽子。 眠そうな目。

荷車には木箱が積まれている。

男は六人を見る。



「……ガキ?」

「珍しいな」

イリスが軽く手を上げた。



「おはよう、ダン」

「あー、パン屋の」 男は欠伸をした。 「今日は随分大人数だな」



「親戚」 イリスは即答した。

男は明らかに信じていない顔をした。

でも、それ以上聞かなかった。



「ま、どうでもいいか」

「面倒起こすなよ」

荷車が横を通り過ぎる。



その瞬間。

レインは気づいた。

木箱の側面。

黒い印。

ノヴァリスで見た記号に似ていた。



ほんの一瞬。

本当に一瞬だけ。

「……レイン?」



エイルの声で我に返る。

気づけば、 荷車は暗闇の奥へ消えていた。



シオンが小さく呟く。 「どうした?」



レインは少し迷ってから言う。

「……いや」

「気のせいかも」

でも、 胸の奥に妙な引っかかりだけが残っていた。



それから数分後。

前方に、薄く光が見え始める。

地下道の終わりだった。



イリスが振り返る。

「もうすぐ出口」

石階段を上る。

古い木の扉。



ぎぃ。と音が鳴る。

「昔の共同貯蔵庫」

イリスはそう言いながら、さらに奥の扉を開けた。

「今はうちが半分使ってる」



古い木の扉を開ける。

そこは、 薄暗い貯蔵庫だった。



壁際には小麦袋と酒樽が並んでいる。 棚には乾燥した香草。

空気に、少しだけ焼きたての匂いが混ざっていた。



「ここ……」 エイルが小さく周囲を見る。

「今はパン屋の倉庫代わり」

イリスは慣れた様子で言った。



「昔の共同貯蔵庫」

イリスはそう言いながら奥へ進む。 「今はうちが半分使ってる」



薄暗い貯蔵庫。 壁際には小麦袋と酒樽が並んでいる。



そのまま奥へ進む。

もう一枚、小さな扉。

開けた瞬間。



熱気が広がった。

「うわ、暑っ」

アリアが顔をしかめる。



そこはパン屋の調理場だった。

大きな窯。 焼き上がったパン。 忙しそうに動く店員。



粉の匂いと、焼けたバターの香りが混ざっている。

店員の一人がイリスを見る。

「おはよー」 「今日はそっち多いね」

「親戚」 イリスは即答した。



「へぇ」

でも、それ以上は聞かれなかった。

イリスは勝手口の扉へ向かう。

「こっち」

扉を開ける。



眩しい光と、 大きな喧騒が一気に押し寄せてきた。

「うわっ……」

アリアが思わず声を漏らす。



次の瞬間。

馬車の音。

呼び込み。

笑い声。

怒鳴り声。

音楽。



色と匂いと声が、 通りいっぱいに溢れていた。

レインは思わず立ち止まる。



同じ朝なのに。

オルディアとは、 まるで別の世界だった。

(……これが、自由の国リベルタス)

今回は、地下道からリベルタスの街へ出るまでの話でした。 今までの章と違い、音や匂い、人の多さをかなり意識して書いています。


自由に見える国。 でも、その裏側にも少しずつ違和感が混ざり始めます。

さらに街の空気が見えてきます。

次回も読んで頂けると嬉しいです。


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少しずつ、三カ国の全貌が見え始める。 『笑い』『選別』『価値』が交差する異世界ファンタジー。 (※執筆・画像すべてスマホ1台で制作しています)
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