第39話「ここはリベルタスです」
選別国家を脱出したレイン達が辿り着いたのは、 “自由の国”リベルタスへ繋がる境界の村でした。
けれど、 そこは決して優しい国ではなく――。
「……また脱走ですか」
クロードは書類から視線を外さないまま言った。
「以前は、孤児番号880125でしたね」
一拍。
「ノヴァリスの管理体制は、随分甘い」
黒服が小さく頭を下げる。
「返答はいかがいたしますか」
「“探しておく”と」
「かしこまりました」
通話が切れる。
黒服が再び口を開く。
「捜索部隊は何人用意いたしますか」
「必要ありません」
黒服がわずかに顔を上げた。
「……よろしいのですか?」
「私達が手を下すまでもありません」
一拍。
「金で雇われた兵士は、慈善活動ではありません」
「価値がないと判断されれば」
「その時点で終わりでしょう」
「それに」
「リベルタスとノヴァリスは友好国です」
「問題はありません」
クロードはようやくペンを置く。
「ここはリベルタスです」
「お金を稼げる者には価値がある」
「国籍は関係ない」
「売上の六割を納めるなら、それで十分です」
窓の外。
眠らない街の灯りが揺れていた。
「むしろ、沢山稼いでもらった方が効率が良い」
「……もっとも」
「オルディアの田舎者には」
「少々厳しい国でしょうが」
黒服は静かに頷いた。
「ただ、一人」 「トーマが可愛がっていた少年が含まれているようです」
そこで初めて、 クロードの手が止まる。
「……あのトーマが?」
小さく笑う。
「あの人体実験じみた研究をしていた男が」 「人を可愛がるとは」
「それは恐ろしいですね」
黒服の言葉に、 クロードは少しだけ考えるように黙った。
――その頃。 ローヴェン村では。
風呂も終わり、 五人は布団へ入っていた。
エイルはレインの隣で横になると、 不安そうに毛布を掴いた。
それから。
そっと、手を握ってきた。
レインも安心させようと、そっと握り返した。
外では風が鳴っている。
知らない村。 知らない国。
それでも。
ノヴァリスより、 少しだけ呼吸がしやすかった。
アリアは既に毛布へ包まっている。
「……疲れた」 小さくそんな声が聞こえた。
「寝ろ」 ティアが呆れたように返す。
シオンは壁際で目を閉じたまま、 小さく呟く。
「でも」
「ここも長く居られる場所じゃなさそうだ」
誰も否定しなかった。
ランプの火が小さく揺れる。
その光を見ながら、 レインもゆっくり目を閉じた。
新しい登場人物
クロード・チェス(34)
黒服に身を包んだ、リベルタス王の側近。
常に一歩引いた位置から人と国を観察し、 感情ではなく“構造”で物事を判断する男。
誰よりも冷静で、 誰よりも正確。
その視線は、 まるで盤面を眺める観測者のように静かだった。
今回は、クロード側の「価値」で動くリベルタスと、ローヴェン村で少しだけ息をつけるレイン達の対比回です。
そしてここから、少しずつ“3カ国の過去”の全貌も見えてきます。
自由の国リベルタス。その裏側も含めて、次回からの第三章を楽しんでもらえたら嬉しいです。




