第37話『自由の寝床』
選べること。 好きに生きられること。 誰にも縛られないこと。
けれど。 その“選択”に値段が付いていたら。
払えない人間は、 最初から選べないのだとしたら。
アリアが小さく首を傾げる。
「お金って」
「そんなに必要なの?」
イリスは苦笑した。
「必要だよ」
「食べるのも」
「泊まるのも」
「通るのも」
「リベルタスって」
「“持ってる人”には優しいから」
静か。
ティアが小さく目を細める。
「逆に、持ってない人には?」
「普通に厳しい」
イリスは即答した。
風。 窓が小さく鳴る。
「パン一つでも高いし」
「土地なんてもっと高い」
「私は向こうでパンを売ってるけど」
「住むのは、無理」
シオンが壁にもたれたまま聞く。
「じゃあ毎回通ってるの?」
「うん」 イリスは頷いた。
「この村の下」
「昔の地下通路が残ってるの」
「それを通って」
「リベルタスのパン屋の裏に繋げてある」
アリアが目を丸くする。
「え、それ大丈夫なの?」
「でもリベルタスの人は、普通に通行証買うよ」
「高いけど」
「働いてれば払えなくはないし」
一拍。
「ここ使うのは」
「正式な道を使えない人たち」
「……かな」
「……見つかったら?」レインが聞いた。
イリスは少しだけ黙った。
「人による」
「罰金だけの時もあるし」
「追い返されるだけの時もある」
一拍。
「でも」
「通行証も持ってない人間が何人もいたら」
「結構面倒」
「売られる人もいる」
風が吹く。 窓が小さく鳴った。
誰もすぐには喋らなかった。
アリアが小さく息を吐く。
「……リベルタスって」
「自由なのか自由じゃないのか分かんない」
イリスは少し考える。
「選べるからね」
「ある意味」
「自由なんだよね」
「……その代わり」
「全部、自分で払うけど」
「あと」
「寝る所、困ってるなら」
それから。 イリスが部屋の奥を見た。
「ここ」
「好きに使っていいよ」
「ありがとう」
アリアが小さく笑った。
「毛布と布団出すね」
「ちょっと待ってて」
イリスが奥へ消える。
オルディアは“管理”で縛る国。 ノヴァリスは“効率”で選別する国。
そしてリベルタスは、 “価値”で人を分ける国です。
どれも違って見えて、 全部どこか歪んでいる。
ローヴェン村は、その境界にある場所として描いています。
次回も読んで頂けると嬉しいです。




