第33話「記録がない村」
関所の前で出会った女性に導かれ、
レイン達は“地図にない道”を進みます。
その先にあったのは、 どこの国にも属しきらない、小さな境界の村でした。
ヴァンなら、たぶん即答していた。 “怪しい” そう言って。
でも、今ここにヴァンはいない。
風が吹く。 柵が小さく軋んだ。
シオンが女性を見る。
「知らない人間を、簡単に村へ入れるんだ」
「簡単じゃないよ」
女性は即座に返した。
「本当は、駄目」
「余計な人を連れてくると怒られる」
「じゃあ何で?」 アリアが聞く。
女性は少しだけ視線を落とした。
「……その竹とんぼの色」
一拍。
「その染料」 「オルディアでしか咲かない花から作る色だよね」
レインは小さく目を細める。
女性の視線が今度はエイルへ向く。
正確には。 抱きしめているぬいぐるみ。
「それに、その布も」
女性はエイルのぬいぐるみへ指を向けた。
「オルディア産だ」
静か。
アリアが小さく眉を上げた。
「分かるの?」
女性は少し困ったように笑う。
「……昔、見てたから」
静かだった。
レインは竹とんぼを見る。
少し削れた羽。 ミレアから渡されたもの。
女性は続ける。
「ローヴェン村ってね」
「“途中”の人が来る場所なんだ」
「途中?」 ティアが聞く。
「選ばれなかった人」
「帰れなかった人」
「待たされてる人」
風。 薄緑の髪が揺れる。
「だから」
「事情ある顔、なんとなく分かる」
シオンは黙ったまま関所を見る。
兵士が増えていた。
「……長居はまずいね」
小さく呟く。
その時だった。
「おい!」 遠くから声。
兵士。 一人がこちらへ歩いてくる。
空気が変わる。
女性は即座に振り返った。
「こっち」
迷いがなかった。
柵の横。 草で隠れた細い道へ入る。
「急いで」
「足跡、残さないで」
アリアが小さく息を飲む。
「え、ちょ、細っ……」
「喋らない」 シオンが低く言う。
全員が動く。
草を掻き分ける。 湿った土。 見えないほど狭い道。
後ろから兵士の声が近づいた。
「そっち見たか?」
「いや、いない」
レインは振り返らない。
女性だけが、迷わず進んでいく。
まるで。 何度も通ったことがあるみたいに。
数分後。
森が開けた。
光。 水の音。 木々の隙間。
その先に――村があった。
小さな橋。 煙突から上がる煙。
石と木で作られた古い家。
でも。
どこか妙だった。
家の形。 置かれている道具。
干されている服。
オルディアとも。
ノヴァリスとも違う。
見たことのない道具。 知らない形の家。 違う言葉が書かれた布。
全部、少しずつ混ざっていた。
アリアが小さく呟く。
「……なにここ」
女性は振り返る。
少しだけ、今までより柔らかい顔で笑った。
「ようこそ」
「ローヴェン村へ」
ローヴェン村は、 「選ばれなかった人」 「帰れなかった人」 「途中で止まった人」 そういう人達が流れ着く場所です。
3カ国の価値観が混ざったこの村は、 この世界の“歪み”そのものでもあります。
次回も読んで頂けると嬉しいです。




