第32話「ローヴェン村」
関所の前。
通行証のないレイン達は、境界で足を止められます。
そこで出会ったのは、“ローヴェン村”という聞いたことがない所でした。
「ちゃんと考えておけばよかったな」
シオンが小さく息を吐く。
その時だった。
「あっ」
「……そのパン」
声。
全員が振り向く。
少し離れた柵の向こう。 一人の女性が立っていた。
長い薄緑の髪。 麻の上着。 どこか疲れたような目。
年齢は二十代後半くらい。
彼女の視線は、 レインの手元へ向いていた。
「それ」
「ローヴェン村のパンだよ」
一拍。
「君たち」
「……リベルタスの人?」
「いや」 レインは小さく首を振った。 「これは、もらったやつだ」
女性は少し目を細める。
「そっか」
静かに呟く。
「でも」
「その様子だと」
「リベルタスへ行きたいんでしょ?」
「通行証が必要だから」
「そんな大事なの?」
アリアが聞く。
「通行証ないと入れない」
「それにすごく」
「高いんだ」
女性は苦く笑った。
「普通は買えないくらいにね」
静か。
どうする。 そんな空気が流れる。
その時だった。
風。
レインの荷物に挟まっていた竹とんぼが、 地面へ落ちる。
カラン。
女性が目を見開き、しゃがみ込む。
「……竹とんぼ?」
ゆっくり拾い上げた。
指先で、軽く回す。
羽が小さく震えた。
「久しぶりに見たな」
一拍。
「まだ、持ってる人いたんだね」
女性は竹とんぼを見つめたまま、小さく呟く。
「昔は、この辺でも飛んでたんだけどね」
風。
羽がかすかに揺れた。
「今は、あんまり見ない」
静かだった。
レインは女性を見る。どこか懐かしそうで。
でも、それ以上に――諦めたような顔だった。
女性はゆっくり立ち上がる。
竹とんぼをレインへ返した。
「君たち」
「ここに居ると、すぐに兵に見つかるよ」
関所の方を見る。
兵士が見回りをしている。
女性は少し困ったように笑う。
「まあ、その反応なら事情あるよね」
一拍。
「なら」
「ローヴェン村、来る?」
アリアが眉を上げる。
「村?」
「ここから少し先」
「境界の村だよ」
シオンが細く目を開く。
「安全なのか?」
「絶対とは言わない」
女性は正直に言った。
「でも、少なくとも」
「関所の前で止まってるよりはマシかな」
竹とんぼ。
ただの遊び道具だったはずの物が、 “昔”を知る人間には違って見える。
ローヴェン村は、3カ国の境界にある小さな村です。
でもそこには、“管理から零れ落ちたもの”が静かに集まっています。
次回も読んで頂けると嬉しいです。




