第3話「見られる人間」
第三章リベルタス編では、今度は“自由”の中にある選別を書いていきます。
音が押し寄せてきた。
馬車。 呼び込み。 音楽。 笑い声。 怒鳴り声。
通りには色んな人間がいた。
派手な服。 汚れた服。 金色の装飾。 ボロボロの靴。
全部が、同じ場所に混ざっている。
「うわぁ……」
アリアが完全に圧倒されていた。
「これ毎日?」 「疲れない?」
「慣れるよ」 イリスは笑った。
シオンは周囲を見回している。
「あっちの店、人多いね」
「人気店だから」
「今リベルタスで流行ってる」
「へぇ」
シオンは“人”じゃなく、 “流れ”を見ていた。
レインは気づく。
その時。
遠くで歓声が上がった。
大道芸人だった。
火を吹き、 ナイフを回し、 人を笑わせている。
周囲には人だかり。
帽子の中へ、次々硬貨が投げ込まれていく。
「すごっ!」 アリアが目を輝かせた。
「めっちゃ人気じゃん!」
「人気っていうか」
シオンがぼそっと言う。
「価値があるんだよ」
「ノヴァリスと同じ」
アリアが眉をひそめる。
シオンは肩を竦めた。
「見たい人がいる」
「金払う人がいる」
「だから成立する」
一拍。
「逆に言えば」
「見られなくなったら終わり」
その言い方が、 少しだけノヴァリスに似ていた。
エイルは人波を避けながら歩いていた。
「あ、ごめんなさい……」
肩が何度もぶつかる。
ポケットに入れた小さいぬいぐるみを握りしめた。
周りは誰も気にしない。
誰も謝らない。
人が多すぎた。
ティアが小さく舌打ちする。
「自由っていうより」
「好き勝手ね」
「まぁね」 イリスは苦笑した。
「でも、誰も止めないから」
「それがリベルタス」
しばらく歩く。
高級そうな店が並ぶ通りへ出た。
ガラス。 宝石。 香水。
通る人間まで綺麗だった。
そのすぐ横。
路地裏には、 座り込んでいる男がいた。
汚れた服。 伸びた髪。
誰も見ていない。
同じ通りなのに、 まるで存在していないみたいだった。
レインは思わず立ち止まる。
「……あの人」
「見ない方がいいよ」 イリスは静かに言った。
「え?」
「見たら、助けなきゃいけなくなるから」
一拍。
「でも、皆そんな余裕ない」
その時。
広場からまた歓声が上がる。
人々はそっちを見る。
笑う。
集まる。
誰かを“見る”。
でも、 路地裏の男には、 誰も視線を向けなかった。
レインは小さく息を呑む。
(……同じ人間なのに)
オルディアとも違う。
ノヴァリスとも違う。
でも、 ここにも確かに“選別”があった。
その時、一人の若者が声を上げた。
「……天使だ」
通りの向こうで、誰かが声を上げた。
「天使がいる!」
一瞬。 周囲の視線が、一方向へ集まった。
リベルタスは、今までの国より“自由”に見える国です。
でも、見られる人間と、見られない人間がいる。
価値。人気。視線。
第三章は、そういう空気を書いていく章になります。
次回も読んで頂けると嬉しいです。




