第26話「逃げ道」
価値観は揃わない。
意見も、目的も、全部バラバラ。
それでも同じ場所にいるなら——
次に問われるのは「どうするか」。
ヴァンが壁へ背を預ける。
「そうかもな」
「で」
低い声。
「結局どうすんだ」
誰も答えない。
アリアがベッドへ寝転がったまま天井を見る。
「どうするって?」
「ここ」 ヴァンは短く言う。
「このまま居続けるのかって話」
静か。
その言葉だけで、空気が少し変わった。
“出る”を、誰も口にしていない。
でも。 全員、その意味は理解していた。
シオンが小さく笑う。
「急に現実的だね」
「このままでいいのか?ってレインが言い出した話だろ」
ヴァンは返す。
シオンは肩を竦めた。
「俺は別に」
「どっちでもいいと思ってた」
小さく息を吐く。
「ここに長くいる気はなかった」
「監視もストレスだった」
一拍。
「でも、それ以外は自由だったから」
「だらだら1年くらい経ってた」
視線を外す。
「……けど」
「そろそろ、だろ」
アリアがベッドに寝転がったまま、天井を見ている。
「……じゃあさ」
小さく笑う。
「出るの?」
静か。
その言葉は軽かった。
ティアが聖水の空瓶を指で転がす。
「出るとして」
「方法は?」
ヴァンが低く返す。
「正面は無理だな」
「監視も多い」
「他にあるのか?」
アリアが身体を起こす。
「裏とか、抜け道とかないの?」
誰もすぐには答えなかった。
シオンが、少しだけ目を逸らした。
レインは視線を動かした。
「……何か知ってるのか」
少しだけ間。
シオンは答えない。 代わりに窓の外を見る。
白い照明。 同じ形の建物。 規則的な巡回灯。
「搬入口は見てた」
「ただの搬入口だと思ってた」
一拍。
「……けど、使えるかもしれない」
空気が止まる。
ヴァンの声が少し小さくなる。
「搬入口?」
「食料とか資材運ぶ場所」
「たぶん地下に繋がってる」
ティアが小さく眉を動かした。
「……地下」
「監視、少なかった」
シオンは続ける。
「正確には、“少なすぎるくらいだ”」
レインは黙ったまま聞いている。
シオンが壁から身体を起こす。
「普通さ」
「逃げられたら困る場所ほど、人置くんだよ」
「なのに逆だった」
静か。
エイルがぬいぐるみを抱く腕に力を入れる。「……なんで?」
「さあ」 シオンは笑う。
「見られて困る物があるのか」
「それとも」
一拍。
「“逃げられない前提”なのか」
「もしくは監視員しか知らないという思い込みか」
誰も喋らなかった。
その言葉は、 妙に現実味があった。
ティアが白粉の缶を弄ぶ。
「行ってみる?」
アリアが即座に返す。
「行けるなら、行ってみようよ」
「短絡的」 ティアは淡々と言う。
「地下構造も不明」
「監視人数も不明」
「出口がある保証もない」
「でも」 アリアが身体を起こす。
「出口かもしれないんでしょ?」
その声だけが、 少しだけ明るかった。
静か。
レインは全員を見る。
考えていることが違う。
見ているものも違う。
なのに。 誰も、この話から目を逸らさなかった。
シオンが小さく笑う。
「……ほんと、バラバラだな」
ヴァンが重く口を開いた。
「すまない」
「……やっぱり俺は行けない。」
動く理由は、それぞれ違う。
止まる理由も、それぞれ違う。
だからこそ、この選択は揃わない。
“出るか、残るか”
同じ問いに向き合っても、
全員が同じ答えを出すとは限らない。
次回も読んで頂けると嬉しいです。




