第20話「呼び出し」
“確認”という言葉ほど、 中身が見えないものはない。
食事が終わる。
重い空気のまま、誰も昨日の続きを話さなかった。
監視員の声だけが響く。
「移動を開始しろ」
列が動き出す。
白い廊下。均一な灯り。同じ形の扉。
レインは歩きながら、周囲を見ていた。
誰も顔を上げない。
誰も、“消えた孤児”の話をしない。
最初から存在していなかったみたいに。
その時。
「900269」
声。
低い。抑揚がない。
列が止まる。
エイルの肩が跳ねた。
レインの視線が動く。
エイルだった。 ぬいぐるみを抱く腕に、わずかに力が入っている。
監視員が続ける。
「前へ出ろ」
静か。
エイルは動かない。
呼吸だけが浅い。
「900269」
「早くしろ」
もう一度。
今度は、少し近い。
エイルは小さく俯いたまま、一歩だけ前へ出た。
レインは監視員を見る。
「……どこに連れてくんだ」
監視員は表情を変えない。
「定期確認だ」
即答。
でも、エイルの反応は普通じゃなかった。
顔色が悪い。
指先が震えている。
ぬいぐるみを胸に押しつけるみたいに抱いていた。
レインはじっと観察する。
(……確認)
昨日、消えた孤児。
“管理対象外”。
頭の奥で繋がる。
ティアは黙っていた。
視線を落としている。
アリアも何も言わない。
笑ってすらいなかった。
ヴァンだけが、わずかに眉を寄せる。
シオンは壁へ寄りかかったまま、目を閉じている。
誰も止めない。
その空気が、逆に異常だった。
レインはエイルを見る。
「おい」
エイルの肩が小さく揺れる。
数秒、黙ったまま。
それから、無理やりみたいに笑った。
「……すぐ戻るから」
小さい声。
まるで、自分に言い聞かせてるみたいだった。
監視員が振り返る。
「移動する」
「こっちだ」
エイルは小さく頷いた。
歩き出す。
白い廊下の奥。
ぬいぐるみの耳だけが、小さく揺れていた。
レインはその背中を見る。
昨日の孤児。
呼ばれた番号。
消えた人間。
(……戻らなかった奴も)
一拍。
(こうやって呼ばれたのか)
“番号で呼ばれる”ことに、 誰も違和感を持たなくなっている。
でも、 レインだけは止まってしまう。
消えた孤児。 呼ばれる番号。 戻ってこない人間。
少しずつ、 点が繋がり始めます。
次回も読んで頂けると嬉しいです。




