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第19話「考えない方がいい」

消えた人間の話は、 誰もしない。

しないんじゃない。 “しないようにしている”。

静かな食堂で、 それぞれの“反応”が見え始めます

食堂。 静かだった。

皿の音だけが響く。 誰も昨日の話をしない。

まるで、 最初から何もなかったみたいに。



レインは周囲を見る。 孤児達。 監視員。 白い壁。

同じ速度で食べる音。

(……普通に戻ってる)



いや。

戻している。

視線が動く。

ティア。 今日は妙に静かだった。

机に置かれたスープ。 ほとんど減っていない。



アリアが横目で見る。

「食べないと倒れるよ」



軽い声。 でも、少しだけ困っているようにも聞こえた。

ティアは俯いたまま。

「……食べたくない」



沈黙。

ヴァンは何も言わない。 パンを持つ手だけに力が入っている。



シオンは変わらず食事を続けていた。 興味がないようにも見える。



レインは小さく息を吐く。

「……“管理対象外”って、何なんだ」



空気が止まった。

皿の音が、一瞬だけ消える。



アリアの視線が上がる。 シオンの手も止まった。



ティアは反応しない。

「考えない方がいい」

小さな声だった。



レインはティアを見る。

「なんで」



ティアは少しだけ黙る。

「壊れるから」

静かだった。



アリアが視線を逸らす。

「知らない方が楽なこともあるの」

淡々とした声。 でも、どこか硬い。



レインはふと考える。

「……それで慣れるのか」

空気が張る。



ヴァンが顔を上げた。 シオンもレインを見る。

異物を見るみたいに。



ティアの指先が小さく震える。 聖水の瓶を握っていた。

その時。

カタン。

小さな音。



レインの視線が動く。

エイルだった。

スプーンを落としている。

「あ……」

小さな声。



拾おうとした手が止まる。 呼吸が浅い。

ぬいぐるみを抱く腕に力が入る。

レインの目が細くなる。

「……エイル?」



エイルは俯いたまま、小さく言った。

「……前にもいた」



静か。

「急に呼ばれて」

「戻ってこなかった人」

誰も動かない。



エイルは続ける。

「名前、なくなって」

「部屋も、片付いてた」

声が少し震える。



「だから」 間。

「……考えないようにした」

沈黙。

レインはエイルを見る。



小さい肩。 怯えた呼吸。

(……怖がってる)

その時。



アリアが急に立ち上がった。

「もうやめよ」

明るい声。 無理やり作ったみたいな笑顔。



「こんな話しても空気悪くなるだけじゃん」

笑おうとする。

でも、 上手く笑えていなかった。



シオンが小さく息を吐く。



ヴァンは黙ったまま、 パンを少しだけ握り潰していた。



レインだけが、 全員を見ていた。

ティア。 アリア。 エイル。 ヴァン。 シオン。

全員、反応が違う。



でも、一つだけ同じだった。

みんな、慣れようとしている。

レインは静かに考える。

ここは――

考えることを、やめさせる場所なのか。

ノヴァリスで恐ろしいのは、 暴力そのものより、 “慣れていくこと”なのかもしれません。


ティアは拒絶し、 アリアは空気を戻そうとし、 ヴァンは押し殺し、 シオンは観察し、 エイルは考えないことで耐えている。


そしてレインだけが、 全員の“反応の違い”を見ていました。


次回も読んで頂けると嬉しいです。

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少しずつ、三カ国の全貌が見え始める。 『笑い』『選別』『価値』が交差する異世界ファンタジー。 (※執筆・画像すべてスマホ1台で制作しています)
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