第21話「戻ってきた」
戻ってきたのは、エイルだけじゃない。
“何が行われているのか”という違和感も、一緒に部屋へ戻ってくる。
この回は大きく動きません。
でも、確実に“関係”が変わります。
見えていないものと、触れてしまったもの。
そのズレが、少しだけ形になります。
部屋。
静かだった。
時計の音もない。
聞こえるのは、廊下の足音だけ。
レインはベッドへ腰掛けたまま、扉を見ていた。
時間がわからない。
どれくらい経ったのかも。
エイルは戻ってこなかった。
(……長いな)
視線が落ちる。
ぬいぐるみ。
エイルが置いていったものだった。
小さなウサギ。
少しだけ耳が潰れている。
レインはそれを手に取る。
柔らかい。
微かに、甘い匂いが残っていた。
その時。
カチャ。
鍵の音。
レインの視線が上がる。
扉が開いた。
監視員。
その後ろ。
エイルだった。
小さい身体。
俯いたまま、ゆっくり入ってくる。
監視員は無表情のまま言った。
「確認は終了した」
それだけ。
扉が閉まる。
静か。
エイルは立ったまま動かない。
レインは見る。
顔色が悪い。
浅い呼吸。震えていた指先。
服の袖を掴む指が、わずかに震えていた。
「……エイル」
エイルの肩が揺れる。
ゆっくり顔が上がる。
無理やりみたいに、少しだけ笑った。
「……戻ったよ」
小さい声。
でも、どこか力がなかった。
レインは立ち上がる。
「何かされた」
沈黙。
エイルは視線を逸らす。
「……確認だけ」
「ならどうして、そんな顔になるんだ?」
一拍。
エイルの指先に力が入る。
言葉が出ない。
レインはエイルを見つめる。
(……話したくないのか)
それとも。
(話せないのか)
静か。
エイルの視線が動く。
ベッド。
ぬいぐるみ。
止まる。
数秒。
それから、少しだけ近づいた。
レインはエイルを見る。
震えている、エイルの指先。
ぬいぐるみを強く抱えている。
移動中も。
寝る時も。
「……それ、邪魔じゃないのか」
エイルの肩が小さく揺れる。
「でも」
「ないと落ち着かない」
静か。
レインは少しだけ目を細めた。
(依存してる)
でも、取り上げたら駄目だ。
昨日の様子を思い出す。
倒れた時のことを思い出す。 浅い呼吸。 震えていた指先。
(……無理に離したら、もっと壊れる)
視線がぬいぐるみに落ちる。
少し大きい。
抱えないと持てないサイズ。
移動には向いてない。
レインは小さく息を吐く。
「……貸して」
エイルが顔を上げる。
「え……?」
レインはぬいぐるみを見る。
潰れた耳。 擦れた布。
「……こいつは、耳直して」
一拍。
「ポケット入るくらいの、作るか」
静か。
エイルは瞬きをした。
「直す?」
まるで、そんな発想がなかったみたいに。
「大切にしてるんだろ」
この回は「確認」という言葉の違和感と、エイルの状態、そしてレインの判断を重ねています。
壊れているのか、守られているのか。その境界が曖昧なまま、少しずつズレが積み上がっていきます。
そして最後の「直すか」は、ただの優しさではなく、“扱い方を変える”という選択でもあります。
次回も読んで頂けると嬉しいです。




