第13話「書かれていないもの」
ノヴァリスの中で、少しずつ“違和感”に触れていきます。
綺麗に整理された場所ほど、 逆に見えなくなるものもあるのかもしれません。
(……ここか)
レインは立ち止まる。 高い天井。整った棚。 同じ高さ、同じ間隔で並ぶ本。
(……揃いすぎてる)静かだった。
音が、ない。 人の気配はあるのに、擦れる音すら抑えられている。
一歩、踏み入れる。
空気が違う。 資料室の重さじゃない。 軽い。 でも、薄い。
(……ちゃんとしてるな)
視線が動く。 背表紙を追う。 文字は読みやすく、整っている。
迷いがない。
(……作られてる)
指先で一冊、引き抜く。 紙の感触は新しい。 ページをめくる。
――3カ国の関係史。
一拍。
視線が止まる。
(……あった)
レインはページを追う。 文章は滑らかで、引っかかりがない。
「長年の信頼関係のもと――」
「3カ国は安定した友好関係を築いている」
(……)
指が止まる。
少しだけ、戻る。
「過去の不幸な事故を乗り越え――」
(……事故)
そこだけが、浮く。
(……軽いな)
ページをもう一度見る。
「同じ温度」 「同じ綺麗さ」
(……これだけか)
視線が、下へ落ちる。 続きは、ない。
(……中身がない)
一拍。
(……違う)
(足りない)
指先で、紙をなぞる。 確かめるように。
(事故の内容がない) (原因も) (誰が、どうなったのかも)
静かすぎる。
(……消されてる?)
一瞬。
(いや)
目を細める。
(最初から、無い)
ページを閉じる。
音が、小さく響いた。
「……何見てるの?」
後ろから声。 振り返らない。
「……これ」
軽く本を傾ける。
エイルが覗き込む。 少しだけ目を丸くする。
「……友好、って書いてある」
「学校でこんなことあったの、習ってない」
素直な声。
「うん」 短く。
ティアは少し離れた位置で見ていた。 近づかない。
「……それが?」
乾いた声。
レインは答えない。
一拍。
「……おかしくない?」
エイルが言う。 小さく。
レインはページをもう一度開く。
同じ場所。
「事故、ってある」
「でも」
指先で軽く叩く。
「これだけだ」
エイルは黙る。
ティアが、ゆっくり近づく。 視線を落とす。
「……綺麗ね」
ぽつり。
「……いい話になってる」
レインは本を閉じる。
「……ああ」
短く。
ティアは少しだけ笑う。
「でも、それでいいんじゃない?」
軽く。
「救われるなら」
一拍。
その言葉は、少しだけ重い。
エイルは何も言わない。 ただ、本を見る。
レインは視線を外す。
棚。 並んだ本。 同じ高さ。
(……揃いすぎてる)
「行くぞ」
それだけ言って、歩き出す。
二人がついてくる。
出口に向かいながら、考える。
(見えてるものと)
一拍。
(起きたことが)
ほんの少しだけ、間が空く。
(……噛み合ってない)
足は止めない。
(でも)
視線は前のまま。
(どっちも、間違ってるとは言えない)
外に出る。
空気が、少しだけ重くなる。
――ズレている。
それは、ひとつじゃない。
「書かれていること」より、 「書かれていないこと」の方が気になる時があります。
レインは、少しずつ“ズレ”を見始めています。
ここから物語の裏側にも触れていきます。
次回も読んで頂けると嬉しいです。




