第12話「答えを持っていなかった」
答えを持っている人なんて、たぶんどこにもいない。
部屋に戻る。
エイルはまだ眠っている。
(……よく寝るな)
レインは壁にもたれる。
ティアは座らない。
そのまま立っている。
沈黙。
(……さっきの続きか)
レインは口を開く。
「なんで資料室に居たんだ?」
短く。
ティアはすぐに答えない。
少しだけ視線を落とす。
「……見たことあるのよ」
ぽつり。
(……)
レインは何も言わない。
ティアの視線が、遠くを見る。
「オルディアにいた時に、仲良くなった子がいてね」
「突然倒れたの」
静かに。
「目の前で」
一拍。
空気が、変わる。
「誰も、何もしなかった」
淡々としている。
「いつも通り」
(……制度か)
(偶然じゃない)
(仕組みだ)
レインは動かない。
ティアは続ける。
「見てたの、私だけ」
「原因はわからない」
少しだけ、息を吸う。
「……それで、その子が」
「“大丈夫、だよね”って」
「“神様いるよね?”って」
「震えてた」
小さく。
(……)
レインは視線を落とす。
ティアは笑う。
乾いた笑い。
「何も言えなかった」
「何も、できなかった」
一拍。
「だから」
少しだけ顔を上げる。
レインは、短く。
「……金、取ったのか」
ティアは笑った後、俯きながら言った。
「……タダの言葉、信じる?」
(……)
レインはしばらく黙る。
「……そうか」
それだけ。
ティアは肩をすくめる。
「別に、分かってほしいわけじゃないし」
強がり。
でも、揺れてる。
レインは少しだけ間を置く。
「で」
「お前は、どうしたい」
同じ問い。
ティアは答えない。
少しだけ目を逸らす。
「……決めてるわよ」
「嘘でもいいから」
「一瞬でも、“ちゃんと見てる人がいる”って思ってほしかった」
小さく。
「そうやって」
「ちゃんと言えるもの作って」
「どうすれば救えるか」
「探してるの」
レインはそれを聞いて、動く。
(……理由は分かった)
一歩、踏み出す。
その時。
ほんの一瞬。
袖に、何かが引っかかる。
(……?)
止まる。
振り返らない。
ティアの指が、触れていた。
すぐに離れる。
沈黙。
「……あんたはさ」
一拍。
「……レイン」
(……)
ほんの一瞬だけ、視線が止まる。
でも、振り返らない。
「……どうやって決めてるの」
小さく。
(……それか)
レインは前を向いたまま答える。
「決めてない」
一拍。
「だから見てる」
「ズレてるとこ、探してる」
少しだけ間。
「そこに、あるから」
ティアは何も言わない。
ただ、ほんの少しだけ目を細める。
(……分からない、か)
レインはそのまま歩く。
後ろで、気配が揺れる。
エイルが、小さく動く。
「……今の」
寝ぼけた声。
レインは短く答える。
「……ああ」
それ以上は言わない。
部屋はまた、静かに戻る。
でも。
(……ズレてるな)
(いつもなら、あいつらはこんな反応しない)
――何かが、変わり始めている。
“救いたい”と、“救える”は違う。
それでも、 誰かを見ようとすることはできるのか。
ここから少しずつ、“この世界の歪み”へ触れていきます。
次回も読んで頂けると嬉しいです。




