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第11話「知らないはずのこと」

知らない方が、楽なこともある。


夜。今日見たことを考えていた。

静かすぎる時間だった。

(……動いたな)

レインは目を閉じたまま、気配だけを追う。

足音は小さい。迷いがない。

扉が、音もなく閉じられる。



(ティアか)

目を開ける。

隣。

エイルは、ぬいぐるみを抱えたまま眠っている。

呼吸は規則正しい。

(……起きないか)



レインは音を立てずに起き上がる。

部屋の外へ。

夜気が冷たい。

少し先に、ティアの背中。

振り返らない。迷わない。

(……慣れてるな)



距離を保ったまま、追う。

やがて、建物の裏手へ。

普段は使われていない入口。

鍵。



(……あれ)

ティアは躊躇なく差し込んだ。

カチ、と音。

(……持ってるのか)

扉が開く。

中へ。



レインも間を置いて入る。

薄暗い。

空気が重い。

(……資料室か)



棚。棚。棚。

紙の匂い。

奥で、ティアが何かを探している。

迷いがない。

(……何見てる)



レインは別の棚へ目を向ける。

無造作に並ぶ記録。

目に入った文字。

――オルディア。

(……やっぱりか)



手に取る。

ページをめくる。

形式ばった文章。

記録。報告。

淡々としている。



(……古いな)

(数十年は経ってそうな紙だった)

さらにめくる。

ノヴァリスは中立国だった。

視線が止まる。



――祝賀記録

――ノヴァリス王生誕祭

(……生誕祭?)



一拍。

ページの端に、指が止まる。

(……祝うのか)

静かに、もう一度見る。

(……この国で) (生誕祭を?)



――オルディア国より献上品

その下。

――事故

(……事故?)

さらに読む。



――体調の急変

――死亡

レインの指が止まる。

(……死んだ?)



一瞬、空気が変わる。

(……なんだこれ)



そのまま続きを追う。

だが――。

「次期国王」 「継承」 「新体制」

そういう記述が、どこにも無い。



まるで。

“死んだ事実だけ”を残して、 その後を消したみたいだった。




もう少し先を読もうとした、その時。

「そこ」

声。

ティアだった。

レインは視線だけ向ける。

「勝手に触ったらダメよ」

軽い声。

でも、ほんの少しだけ低い。



「……別にいいだろ」



「よくない」

ティアは一歩近づく。

「それ、“外向けじゃないやつ”」

「外のは、形だけよ」

(……やっぱりか)

レインは本を閉じる。



「お前は何見てたんだ」

ティアは肩をすくめる。

「勉強よ」 「“神っぽい振る舞い”を学んでるの」

棚を指で叩く。

「巫女とか、祈りとか、そういうの」

「……本気か」



「何が」

「それ」

一拍。

ティアは笑う。

「さぁね」

目は笑ってない。

(……やってるな)

レインは一歩下がる。

「嘘だろ、それ」



静かに言う。

ティアは、すぐに否定しない。

わずかな沈黙。

「……そうよ」



「じゃあなんでやってるんだ」



ティアはレインを見る。

そのまま、少しだけ首を傾げる。

「……なら、あんたは何かできるの?」



(……)

レインは答えない。



ティアは視線を外す。

「見てるだけで、変わると思ってる?」

静か。



でも、逃げてない。

レインは少しだけ息を吐く。

「……それで」

一拍。

「お前は、どうしたい」



ティアは黙る。

答えない。

考えながら、

そのまま背を向ける。



「帰るわよ」

それだけ言って、歩き出す。



レインは追う。

(……中途半端だな)



外に出る。

夜気。

さっきより冷たい気がした。

二人とも、何も言わない。

ただ、歩く。

(……知らないはずのこと)

頭の中で、言葉だけが残る。


知っている側”と“知らない側”。


そのズレは、少しずつ言葉になり始めます。

ここから、物語の核心へ入っていきます。


次回も読んで頂けると嬉しいです。

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少しずつ、三カ国の全貌が見え始める。 『笑い』『選別』『価値』が交差する異世界ファンタジー。 (※執筆・画像すべてスマホ1台で制作しています)
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