第10話「揃いすぎている」
「揃っている」は、本当に安心できることなのか
朝。
光が、静かに差し込んでくる。
レインは、目を開けていた。
(……寝てないな)
隣。
エイルは、まだ眠っている。
ぬいぐるみを抱いたまま。
(……普通、か)
昨日と同じ言葉が浮かんで、止まる。
(……違う)
“普通”の中に、あれは入っていない。
視線を逸らす。
(……考えるな)
起き上がる。
外に出る。
空気は冷たい。
庭。
洗濯物は、乾いていた。
レインはそれを軽く触る。
(……ちゃんと乾くんだな)
当たり前のこと。
でも、少しだけ確かめるように。
後ろから声。
「何してんの」
ティアだった。
「別に」
レインは振り返らない。
ティアは少しだけ目を細める。
「顔、死んでる」
「寝てないだけだ」
「へぇ」
それ以上は言わない。
ただ、少しだけ笑った。
(……やっぱり、知ってるな)
「今日は外行くわよ」
唐突に、ティアが言った。
「は?」
「買い物。食材切れてる」
「……俺でも行けるだろ」
「場所知らないでしょ」
一拍。
「それとも、ここで寝てる?」
レインは小さく息を吐いた。
「……行く」
町。
人が多い。
声が多い。
エイルは隣で、少しだけ周りを見ている。
珍しそうに。
「人、いっぱい」
「そりゃ町だしな」
「離れんなよ」
「……うん」
エイルは小さくレインを見る。
(……私の方が年上なのに)
「どうしたんだ?」
「行くぞ」
歩く。
ふと。
(……ん?)
(……子供?)
一瞬、そう思った。
違う。
(目が、合わない)
近くで見る。
(……同じだ)
身長。
骨格。
顔つき。
全員、ほぼ同じ年齢。
(……16くらいか)
なのに、
(……なんで、あんなに小さく見える)
十数人。
並んでいる。
(……整いすぎてる)
姿勢。
間隔。
視線。
揃っている。
(……あれ)
違和感。
レインは、歩きながら目だけで追う。
「また来てる」
近くで、声。
「オルディアの子でしょ?」
「ほんとに規則正しいよね」
「楽でいいんじゃない?あぁいうの」
笑い声。
軽い。
レインは足を止めた。
(……また?)
その言葉だけが、引っかかる。
“また”
(……定期的、か?)
視線を戻す。
人数。
一、二、三――
(……同じだ)
昨日、どこかで見た数と。
(……いや)
思い出せない。
でも、
(……揃いすぎてる)
「何見てんの」
ティア。
レインは視線を外さない。
「……あれ」
ティアは一瞬だけ見て、すぐに興味を失ったように肩をすくめる。
「いつものでしょ」
「いつも?」
「そういう制度」
あっさり。
「制度って何だよ」
「そのままの意味」
「教育、管理、移動」
「全部セット」
それ以上は言わない。
レインはもう一度、あの集団を見る。
誰も、喋らない。
誰も、崩れない。
(……ズレてない)
完璧に揃っている。
(……だから、ズレてる)
エイルが、小さく言う。
「……静か」
「だな」
「でも」
少しだけ首を傾げる。
「なんか……変」
レインは一瞬だけエイルを見る。
(……気づくのか)
その時。
集団の一人が、ほんの少しだけ視線を動かした。
一瞬。
レインと目が合う。
感情が、ない。
(……違う)
“消えてる”
次の瞬間。
また、元に戻る。
何もなかったように。
「行くわよ」
ティアが歩き出す。
レインは動かない。
(……あれ)
頭の中で、何かが繋がりかける。
でも、まだ足りない。
(……調べるか)
小さく呟く。
ティアが振り返る。
「やめときな」
軽く。
「知っても、いいことないから」
レインは答えない。
ただ、もう一度だけ、集団を見る。
(……同じ人数)
(……同じ配置)
(……同じ顔)
そこまで考えて、
止まる。
(……いや)
言葉に、ならない。
ただ――
(……何かが、おかしい)
“ズレがない”は、時々それだけで不気味になる。
ここから少しずつ、 ノヴァリスの「普通」が見えてきます。
次回も読んで頂けると嬉しいです。




