第7話「近すぎる距離」
同じ部屋。
同じ時間。
少しずつ慣れていくはずの距離は、
ある出来事で、思っていたよりも近くなる。
それが、どういう意味なのか。
まだ、誰もわかっていない。
「シャワー、どうする?」
エイルが言った。
レインは軽く肩を回した。
(……各部屋にシャワーあって助かるな)
「交代でいいでしょ」
ティアはすでに水の入った器を持っていた。
「先に入るわ」
そう言って立ち上がる。
レインは言った。
「じゃあ、そのあとでいい」
エイルは小さく頷いた。
「うん」
3人はシャワーを終えた。
しばらくして。
ティアは部屋の隅で、いつものように作業をしていた。 水に塩を溶かし、静かに混ぜる。
「……」
手元に集中している。
その時だった。
――コツン。
レインが荷物を床に置いた拍子に、 器がわずかに揺れた。
「あ」
次の瞬間。
しゃ、と水がこぼれる。
「……っ」
床に広がる透明な水。 そのまま、
じわりと布へ染み込んでいく。
「……最悪」
ティアが小さく舌打ちした。
レインが振り向く。
「どうした?」
「こぼした」
短い。
視線を落とすと、 ベッドの端がしっかり濡れていた。
「うわ、マジか」
エイルも近づく。
「あ……これ、結構」
(私のベッド濡れちゃった)
「乾かないわね」
「悪い」
「……ミスった」
の方が“らしさ”強くなる
「次は気をつける」
ティアは淡々と言う。
一拍。
「……私、床で寝るからいい」
そう言って、さっさと別の場所に毛布を引き始める。
レインは眉をひそめた。
「いや、待てって」
「床は冷たいだろ」
「いいって言ってるでしょ」
エイルは言った。
「よくねぇだろ」 レインはため息をつく。
そして、エイルの方を見る。
「ほら、ベッド使えよ」
「え?」
エイルが目を丸くする。
「いやでも――」
「濡れてないし」
レインはあっさり言う。
「俺はどこでも寝られる」
「でも、それだとレインが体痛くなるでしょ」
エイルは少し困ったように言った。
レイン
「大丈夫だ、気にするな」
一拍。
少し考えてエイルは言った。
「……じゃあ」
小さく言う。
「一緒に寝る?」
空気が、ほんの少し止まる。
レイン 「は?」
ティアは無言でこちらを見た。
エイルは少しだけ視線を逸らしながら、
「その方が効率いいでしょ」
と付け足した。
「……効率いい?」
レインは少しだけ考えて、 肩をすくめた。
「……狭いだろ」
エイル
「いいから、一緒に寝よ」
レイン
「強引だなぁ」
(寝れるのか?俺は?)
ティアは小さくため息をついた。 「好きにしなさい」
夜。
部屋の明かりは落とされていた。
ベッドの上。
レインとエイルが並ぶ。
「……」
少しだけ距離がある。
「狭くない?」
エイルが小さく聞く。
「少し狭い」
レインは天井を見たまま答える。
(この状況どうすればいいんだ)
一拍。
「……近いと、あったかいね」
ぽつり。
レインは少しだけ視線を動かした。
「……そうだな」
(……近い)
(意識するなよ、俺)
(……無理だろ)
それだけ。
静か。
しばらくして。
エイルの呼吸が少しずつ落ち着いていく。
(……寝たか)
(寝顔……かわいすぎる)
小さく呟く。
その時。
エイルが少しだけ身じろぎした。
(ふわっと、甘い香りが近づく。
距離が縮まる。)
肩に触れる。
「……」
レインは一瞬だけ固まって、
(……心臓、うるせぇな)
そのまま、何も言わなかった。
朝。
光が差し込む。
エイルはゆっくり目を開けた。
「……あ」
すぐ隣。
レインの顔。
少しだけ近い。
「……」
一瞬だけ、止まる。
(……ちゃんと、いる)
そして。
「……小さく、目を細めた。」
距離は、縮めようとして縮まるものじゃない。
気づいた時には、もう近い。
そのことに戸惑うのは、
たぶん、悪いことじゃない。
次回も読んで頂けると嬉しいです。




