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第5話「回される朝」

静かな朝。 それは、本来なら穏やかなもののはずだった。

けれどこの場所では、 「静けさ」は、安心ではなく――違和感になる。

何も命じられていないのに、動き続ける子供たち。 誰も疑問を持たない空気。

その中に、少しだけ“ズレ”が混ざり始めます。

静かだった。

——静かすぎる。

けれど、音はある。

水を汲む音。

布を絞る音。

足音。



レインは、ゆっくりと起き上がった。

(……もう動いてる)

広い一部屋に、ベッドが三つ。

間が、妙に空いている。



隣を見る。

エイルも目を開けていた。

「起きてるのか」

「うん」

短い返事。




そのまま、二人で外に出る。

外は、すでに始まっていた。

孤児たちが、黙々と動いている。

誰も喋らない。

誰も指示していない。

それでも、止まらない。



水を運ぶ者。

床を拭く者。

餌を運ぶ者。

(……早いな)

その時、一人の孤児がこちらに気づいた。

びく、と体が揺れる。



「お、おはようございます」

レインは軽く手を振る。

「そんなに警戒しなくていいって」

「俺達、別に……変わんないし」

一歩も、近づいてこない。

「整列」

低い声が落ちた。



空気が変わる。

全員が一瞬で並んだ。

レインたちも、無言で並ぶ。

監視員が前に立つ。



「今週の食事係」

一拍。

「――お前たち3人だ」

レインと、エイルと。

少し遅れて、ティアが並んだ。



「遅れるな」

それだけ言って、監視員は去る。

(……決められてる)

レインは、視線だけで周囲を見る。

誰も、何も言わない。



厨房。

すでに、半分以上できていた。

孤児たちが、黙々と手を動かしている。

「ここ、お願いします」

自然に、場所を渡される。



レインは手を止めた。

(……もうできてるじゃねぇか)

それでも、動く。

動かなければいけない。

並べられた朝食。



野菜、肉、フルーツ。

……デザートだけ、やたら豪華だ。

エイルが、皿を見る。

「……これが普通だよ」



「はい、そうですね」

「長くいると、それが普通になります」

孤児は、迷いなく答えた。

その時だった。



ティアだけ、別の皿を取った。



監視員の視線が、一瞬だけ皿に落ちる。

「……その皿は、指示に含まれていない」

一拍。

「食事は五分で終えろ」



レイン

(うわぁ、指摘早いなぁ)



ティア勝ち誇ったように言った。

「これは元からあったものだ」

「問題はない」



そして、無言で耳に何かを押し込み

、パンケーキにフルーツと生クリームをたっぷりとかける。



レイン

(うわぁこいつ甘党なんだ)

(……じゃなくて、耳栓ってなんだよ)



監視員の指が、名簿に触れる。

一行、線が引かれた。

何も言わない。



レイン

「野菜も食べろよ」

「って言っても耳栓してるから、聞こえないか」



ティア

「今日はフルーツを食べるようお告げが出ている」



レイン

「げっ聞こえてたのかよ」

「野菜食べたくないだけだろ」



レインとティアが話している。

理由は分からない。

ただ、目がいく。

それが、少しだけ気になった。



アリアがキャピキャピ話しながら、こっちへ来た。

「でね、あそこのケーキが凄く美味しかったのぉ♡」

「今度一緒に行こう♡」

(朝から全開だなぁ)



「あー俺朝弱いから、スムージーだけでいいかなぁ」

「起きたばかりの俺に、見惚れんなよ」

シオンはウインクしながら、言った。

(うぜー)



ヴァン

「朝はゆでたまごと鳥のささみを茹でた物と蒸し野菜、それで充分」

「使える筋肉を作れよ」

(誰に言ってんだ?)



孤児達は、バランス良く野菜も肉も取っていた。

部屋の奥では、ぼんやりした灰金色の少年と、小柄な黒髪の少女が静かに食事をしている。

レインは、二人がほとんど喋っていないことだけ覚えていた。



エイルも、バランス良く野菜、肉やパンを取って、テーブルに座る。

「いただきます」



野菜と肉をパンで挟み、口に運ぶ。

ゆっくりと噛む。

一拍。

「……美味しいわ」



その声は、穏やかだった。

でも。

隣から、同じ音がした。



同じ速さで、同じタイミングで、噛む音。

視線を動かす。



全員が、同じ順番で食べている。

同じ量を、同じ速さで。

誰も、迷わない。

誰も、手を止めない。



(……なんだ、これ)

エイルが、ふと顔を上げた。

「何、そんなにじっと見て」

「どうしたの?」



「えっ?いや、何でもない」

レインも、野菜と肉を取る。

鍋を見る。

材料を見る。



「……足りないな」



「何が?」



「全部だ」



ティアが、パンケーキを食べながら言った。

「食べたら、3人で買いに行くわ」

一拍。



「決まってるから」


レイン

「……誰が決めた?」



ティアは、少しだけ首を傾げた。

「さあ?」



一拍。

「でも、そういうものよ」



「私も行っていいの?」



レインは、短く息を吐いた。

「当たり前だろ」



(……回ってる)

一拍。

(……俺たちも)



言葉が、そこで止まる。



視線を落とす。

鍋。

材料。

皿。

手。

同じ動き。

(……なんだ、これ) 



(俺たちも、ここに組み込まれてる)

(……それでも)

レインは、鍋から目を逸らさなかった。


今回の話は、「回っている世界」の描写です。 誰かが命令しているわけでもないのに、止まらない日常。

そして、その中に自然と組み込まれていくレインたち。


違和感はあるのに、誰もそれを言葉にしない。 それが一番怖い状態かもしれません。


この先、この“回り続ける世界”に対して、 レインがどう向き合っていくのか。

次回も読んでいただけると嬉しいです。

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少しずつ、三カ国の全貌が見え始める。 『笑い』『選別』『価値』が交差する異世界ファンタジー。 (※執筆・画像すべてスマホ1台で制作しています)
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