第3話「甘い清め」
少しずつ、この場所の“違和感”が形になってきました。
正しさも、優しさも、全部どこかズレている。
そんな中での、小さな出来事です。
部屋に入る。
広いのに、狭い。
物が多すぎる。
……聖堂みたいになってきたな。
(……ここで寝るのか)
(ベッドを眺めた)
レインは一歩、足を進めた。
――違和感。
視線が、床に落ちる。
白い粉。
一点に、こんもりと盛られている。
(……またか)
(しかも、物がまた増えてる)
「そこ、もう清めた場所だ」
「汚すなよ」
後ろから声。
振り返るまでもない。
ティアだった。
床にしゃがみ込み、指先で形を整えている。
円。
妙に整った形。
レインは一歩、近づいた。
「……何してんだ」
「邪気がある」
淡々とした声。
「魔除けだ」
レインはしゃがみ込む。
指で、少しだけ触れる。
ざらり。
(……これ)
「砂糖だろ」
ティアは顔を上げない。
「塩は使いすぎた」
一拍。
「なかったんだもん」
レインは黙る。
(……いや)
「だからって砂糖使うなよ」
「問題ない」
ティアは即答した。
「見た目は同じだ」
レインは、息を吐く。
(同じじゃないだろ)
視線が、砂糖に落ちる。
(……虫くるだろ)
言いかけて、止まる。
一拍。
(……ミレア)
ポケットに虫を入れていた少女。
笑っていた顔。
「見て!かわいいでしょ!」
「あっ本当だ、キレイだね」
「虫を近づけるな」
(……うるさいくらいだった)
視界が、少し滲む。
……弱いな。
現実に引き戻される。
ティアが、こちらを見てニヤリとする。
「男だろ、泣くなよ」
「泣いてねぇ」
即答する。
「泣いてた」
「泣いてねぇって」
「邪気だな」
「違う」
言い返す。
「違うからな」
ティアは立ち上がる。
一歩、近づく。
距離が、近い。
「大丈夫、わかっている」
「清めてやる」
「それは――」
言いかけて、
手が伸びる。
ティアの手。
瓶。
「ちょっと待て」
遅い。
水が、振られる。
ぱしゃり。
床に跳ねる。
空気が、揺れる。
一拍。
水が、
別の方向に飛ぶ。
「――エイルに、かかる。」
壁際に立っていた。
気づかなかった。
濡れた髪。
静かな目。
動かない。
レインは立ち上がり、急いでタオルで髪を拭く。
「……大丈夫か」
「風邪引くから、着替えてこいよ」
エイルは、少しだけ視線を上げる。
レインを見る。
「……」
間。
エイル
「優しいね」
レイン
「は?」
エイル
「それは、孤児の情報を聞き出すため?」
レインは眉をひそめる。
「違う」
一拍。
言葉を探す。
出てこない。
(……なんでだ)
「……そういうもんだろ」
小さく言う。
エイルは首をかしげる。
理解できない、という顔。
「そうなの?」
「……いいから、着替えてこい。風邪ひくぞ」
レインは視線を外す。
ティアが、そろりと部屋を出ようとする。
「お前は俺と片付けだ」
止まる。
レインは床を見る。
砂糖。
少し崩れている。
(……片付けるか)
しゃがむ。
手で集める。
ざらり。
「ほら、床もちゃんと拭けよな」
「……これ、あとでベタつくやつだ」
「ふーんだ」
ティアは仕方なく床を拭き始める。
エイルが戻ってくる。
「着替えた」
一拍。
「……私も手伝う」
レインは少しだけ笑った。
「大丈夫だ」
手を止めずに言う。
「……ここ、変えてもらうか」
「俺は耐えられるけど、前からキツかっただろ」
エイルが顔を上げる。
「えっ?」
「でも……私も?」
レイン
「……いいから、行くぞ」
今回は「清め」という行為を通して、
それぞれの価値観のズレを書いてみました。
同じものを見ているのに、意味が違う。
同じ行動なのに、受け取り方が違う。
そのズレが、少しずつ積み重なっていきます。
次回も、読んで頂けると嬉しいです。




