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第2話「部屋」

並ばされる。 名前を呼ばれる。 部屋が決まる。

それだけのはずなのに、 ここでは、少しだけ違う。

「選ばれる」という言葉の意味が、 まだよく分からないまま――

廊下に並ばされる。

無言。

足音だけが響く。

「整列しろ」



監視員の声。

低い。抑揚がない。

レインは、列の中で顔を上げた。

視線が、動く。



――止まる。

(……あれ)

見覚えがあった。



一人。

二人。

三人。

(……いる)

オルディアで見た顔。



同じ制服。

同じ年頃。

一拍。

(……なんで)

息が、一瞬だけ引っかかる。



声は出ない。

もう一度、見る。

(来てる)

(全員)

ここに。

並ばされている。



「名前を呼ぶ」

監視員が、紙をめくる。

「呼ばれた者は前に出ろ」

淡々とした声。



「レイン・アルト」

一拍。

「お前は」

「ティア・フユチ」

「番号900269」

「同室だ」



呼ばれる。

足が動く。

前へ出る。



監視員が、こちらを見る。

「レインとティアは――」

一拍。

「……違うな」

視線が、順に動く。

「アリア、シオン、ヴァン」

「……全員、“処分対象”だった」

一拍。

「——昔はな」

静かに、言い切る。



「価値があるかどうかを見る」

「使えるやつは上へ行く」

「それ以外は、回す」



一拍。

「逃げても無駄だ」

「……お前たちなら、わかるはずだ」

「同じ国のやつだろう」

「見つけたら、報告しろ」



「名前はリリア・ノエル。

登録番号、880125」

「識別は首の後ろの焼印で確認する」

「年齢は不要。範囲で処理する」



「脱走は約4年前」

「外見は黄色人種。髪は金色、

肩より長い。体格は中肉中背」

「外見は変更されている可能性あり」



一拍。

「……誤差として処理する。それが一番、無駄がない」



沈黙。

そのとき――



「おい、聞いてんのか!」

「選ばれた立場わかってんのか?」 「黙ってりゃ許されると思ってんじゃねぇぞ」

一人の監視員が、孤児の肩を掴んだ。



崩れる。

音もなく。



呼吸は、ある。

「……機能低下」

「下位区分へ移行」

「運んでおけ」



誰も、声を出さない。

(……今のは)

説明はない。



シオンが、軽く肩をすくめた。

「最初はビビるよな」



一拍。

「……そのうち、何も思わなくなる」



レインは言葉が出なかった。

視線を落とす。

床。



運ばれていく体。

そして、拳を握った。



監視員

「統制は維持されている」

「問題なし」

「運んでおけ」

一拍。



「――次」

一拍。

紙をめくる。

監視員は、

次々と部屋を割り当てていく。

(……あの3人)

(……もう慣れてる)

(思ったより、長いのか)



「——この部屋だ」

扉が開く。

中は、簡素だった。

ベッドが三つ。



机。

棚。

全部、同じ。

(……同じだ)

足を踏み入れる。

視線が動く。



部屋の中。

白い粉。水。聖印。

そこかしこに置かれている。

(……最悪だ)



廊下や床が、いつも濡れている。

ところどころ、水が滲んだ跡。



さっき聖水を作って、瓶に入れ、

運ぶ途中で――こぼしている。



それを、監視員が踏んだ。

濡れた音が、小さく鳴る。

足を止めることはない。

視線も、落とさない。

ただ――

ほんの一瞬だけ、眉が動いた。



ティア

「あっ、そこ聖域だ。踏むな」



レイン

「えっ」

よろけて転んだ。

粉が舞う。



ティア

「下をよく見て」

「気をつけて通ること」



レイン

「はぁー」

「はい」

(野宿のがマシな気がする)



もう一人、入ってくる。

足音が、止まる。

髪は水色。

きれいに束ねられている。

一拍。

(……900269番)



視線が合う。

すぐ逸れる。

(……違う)

空気が、違う。



ティアが塩を手に持って、口を開く。

「同じ部屋だな」



レイン

「また塩ぶつけるなよ」



ティア

「邪気を払っているだけだ」

「それにこれは塩ではない」



レイン

「じゃあ何だ?」



ティア

「何でもいいでしょ」

「効くんだから、問題ない」



レイン

「食物だろ?」

「調味料は大切に使えよな」

一拍。

視線が動く。



番号900269が後から入ってきた。

「よろしく」



レイン

「俺の名前は――」



番号900269が言った。

一拍。

「レイン・アルト」

「紙芝居、コマ、竹とんぼ、ぬいぐるみ」

「娯楽を広めたとして、ノヴァリス送り」



レイン

「……え?」



番号900269

「後から来た子達が言ってた」

「レインのこと、話してた子がいて」

「すごく、悲しんでたってさ」



レイン

「……そうか」

一拍。

「元気か?」



番号900269

「うん、元気だって言ってた」



一拍。

番号900269は、少し遅れて不器用に笑った。

「私の名前はエイル」

「よろしくね」

視線が、落ちる。

「レインぬいぐるみだよね?」

「どうしたの?」



レイン

「……自分で作った」

「思い出の物だ」



エイル

「へぇ」

「……いいな」



一拍。

レイン

「……ならやるよ」



エイルは嬉しそうにぬいぐるみを抱えた。

「えっいいの?」

「ありがとう」

新たな登場人物紹介。

エイル(18)


元孤児。学園の前に置き去りにされていた少女。

名前より先に、与えられたもの。


番号は900269。


水色の髪が美しい、静かな少女。


人との距離が近く、よく触れる。

触れているときだけ、


ほんの少しだけ、落ち着いた顔をする。

理由は、分からない。

――“愛”という言葉を、知らない。


この出会いが、何を変えるのか。

次回も読んで頂けると嬉しいです。

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少しずつ、三カ国の全貌が見え始める。 『笑い』『選別』『価値』が交差する異世界ファンタジー。 (※執筆・画像すべてスマホ1台で制作しています)
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