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第1話「同じ場所」

この国には、笑いがない。

――でも、笑っている。


教育国家オルディア。

娯楽を禁じられた世界で、“遊び”を作った。


それは、世界の“ズレ”を暴くものだった。

違反者は、選別国家ノヴァリスへ。


第2章開幕。ここからでも読み始められます。

巫女を演じる少女。愛を知らぬ少女。


“ズレ”を視る少年。

物語はここから動き出す。

バスが止まった。

揺れが消える。

しばらく、動けなかった。



「降りろ」

レインは、腰を上げた。

外に出る。

冷たい空気。



でも、森とは違う。

整えられた空気。

視線を上げる。



建物。

大きい。

無機質な壁。

装飾は、ない。

窓が並んでいる。



同じ形。

同じ間隔。

足が止まる。



後ろから押される。

「止まるな」

低い声。

前へ出る。



入口。

開いた扉の先。

廊下。

白い壁。



規則的な扉。

床。

天井。

光。

全部。

(……同じ)

バスの中と、変わらない。

人がいるのに、空気が動かない。



「こっちだ」

腕を掴まれる。

振りほどくほどじゃない。

でも、自由でもない。



歩かされる。

曲がる。

さらに奥へ。

止まる。



(適正管理棟)

と書かれた建物だった。

部屋。

扉が開く。

中に、数人いた。



年上。

一瞬で分かる。

雰囲気が違う。

「……来たか」

一人が、こちらを見る。



軽い声。

でも、目は笑っていない。

「ここで生活する」

後ろから、指導員の声。



「指示に従え」

「勝手な行動はするな」

一拍。

「脱走は意味がないからな」

理由は言わない。



「説明は、こいつらに聞け」

それだけ言って、扉が閉まる。

がちゃん。

音が残る。



静かになる。

少しの間。

誰も、動かない。

「……まあ、そんな感じ」

最初に動いたのは、赤い髪の少女だった。

にこりと笑う。



「大丈夫よ。ここ、そんなに悪くない」

柔らかい声。



安心させるように。

「最初はみんな、びっくりするけどね」

一歩、近づく。

距離が近い。

「ちゃんとやれば、ちゃんと見てもらえるから」



「私は“人の心を動かしすぎた”って言われたの」

「素敵でしょ?」

キラッと笑顔からのウインク。



「私はアリア・ラブリス」

「気軽にアリアって呼んでね」

アイドルさながらの対応を、見せつけた。



その横で、別の男前がくすっと笑った。

「“ちゃんとやれば”ね」

指をくるくる回す。



軽い動き。

「俺の名前はシオン・トリック」

「シオンでいいぜ」

指パッチン。



ジャケットから鳩が飛び出す。

「クルックー」

白い鳩は、そのまま飛んでいった。

(うわ、鳩出した)


「ルールはさ、あるけどさ――」

顔を傾ける。

「見せ方で、いくらでも変わるよ」

細い目。

笑っている。



「コレが俺のやり方。ショーをやってたら」

一拍。

「邪魔って言われた」



壁際。

腕を組んだ男が、こちらを見た。

「俺はヴァンだ」

「物ぶっ壊した」

「アルミ缶を、指二本で挟んだ。」



一瞬。

ぺしゃんこに潰れる。

「こうしてやった」

「ただ、それだけだ」

腹筋を続けながら話す男。

低い声。



最後に。

少し離れた位置。

少女が、静かにこちらを見ていた。

まばたきが少ない。



「ここは、“選ばれる場所”なの」

ゆっくりと、言う。

「価値がある人は、ちゃんと上に行ける」

一拍。

「だから、安心していい」

声は優しい。

でも、どこか遠い。



「私の名前はティア・フユチ」

「ティアでいいわ」

水で手を洗いながら。

「“正しいことをしただけよ”」



「あなた、邪気がついてるわ」

紋様の刻まれた小瓶。

中に指を入れる。

(……塩?)



次の瞬間、飛んできた。

「痛っ」



「お清めよ」

ティアは静かに微笑む。



レインは顔をしかめた。

「……自称か、何なんだこいつ」



「俺はレイン・アルト」

「レインでいい」



「遊び、作ってた」

「それで――」

少し考える。

「止められた」



「へぇー」

シオン見ながら笑う。

「ま、俺の方が100倍男前だけど」



レイン

(……なんて返すんだ、これ)



「シオンキモっ」

アリアが白い目を向ける。



一拍。

すぐに、表情が変わる。

「でもさ」

上目遣い。

「私は、そういうの嫌いじゃないよ?」



「ふっふっ」

ヴァンは床で腹筋を続けている。

体をひねる。

軋む音。

「筋肉を育てないと、1日も休んではダメだ!」



「そんなつまらない事言うのは」

ティアが、静かに言う。

「悪霊に憑かれているんだわ」



塩が、飛ぶ。

「おいっ」

シオンが顔をしかめる。

「やめろよ」

「調味料ぶつけんなよ」



ティア

「私は今、集中しているの」

「黙りなさい」

「えいっ」



塩が飛ぶ。

もう一度。

ぱら、と当たる。



レイン

「……それ、食い物だろ」



――誰も止めない。

笑いが、ある。

でも。

(……違う)

一拍。

オルディアの顔が、浮かぶ。



ミレア。

カイ。

サリア。

――同じ“ふざけ”なのに。



(温度が、違う)

喉が、詰まる。

目の奥が、少しだけ熱くなる。

(……なんだ、ここ)



一瞬だけ。

本気で思った。

(来る場所、間違えたかもしれない)

――でも。

もう、戻れない。


ノヴァリス編 登場人物


・アリア・ラブリス(17)

「人の心を動かしすぎた」ことでここに来た少女。明るく人懐っこく、場の空気を一瞬で変える。その笑顔は、本物かどうか分からない。


・シオン・トリック(17)

嘘と演出で人を惹きつける青年。軽口と遊び心で場を操るが、どこまでが本音かは不明。“見せ方次第で世界は変わる”が持論。


・ヴァン(18)

力で価値を示す男。無口で単純、だがその“強さ”は明確な評価対象。この場所において、最も分かりやすい存在。


・ティア・フユチ(18)

“正しさ”を語る少女。霊や清めを信じているように見えるが、その本質は別にある。優しい言葉と、距離のある目が特徴。


・レイン・アルト(16)“遊び”を作ったことでここに送られた少年。人の違和感やズレを観察する。この場所で、何を見るのか。


――ここは、“選ばれる場所”。

次回も読んで頂けると嬉しいです。

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少しずつ、三カ国の全貌が見え始める。 『笑い』『選別』『価値』が交差する異世界ファンタジー。 (※執筆・画像すべてスマホ1台で制作しています)
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