第32話「無償という選択」
この国では、ある条件を満たせば「無償」で教育を受けられます。
負担が減る。
将来のためになる。
——そう言われれば、誰だって納得する。
でも、その“選択”は、本当に自由なんでしょうか。
サリア
「レインのご両親は?」
「心配してるんじゃない?」
「……確か、拒否できるんじゃなかった?」
カイ
「でも――払える家は少ないよな」
レイン
「あぁ」
一拍。
「学費を払わなければ、無償になる」
少しだけ、笑った。
「“学校教育方針への同意”にチェック入れたら、タダになるんだってさ」
「いい学校だわって――喜んでたよ」
カイ
「無償って言葉、強いよな」
「……それだけで、納得する奴もいる」
誰も、すぐには言葉を返さなかった。
「合理的な判断です」
リゼルは続けた。
「負担を軽減し、適正な教育を受けられる」
「親としては、当然の選択でしょう」
カイ
「さっきから、なんだそれ」
「人の話してんのに――」
一歩、踏み出す。
「お前だろっ」
「レインをノヴァリス行きにしたのは」
リゼル
「娯楽の拡散を確認しました」
一拍。
「規定に基づき、選定されています」
カイ
「なら俺達だって同罪だ」
「一緒に連れて行け」
リゼル
「必要ありません」
「関与の度合いが異なります」
カイ
「どうしてそうなる?」
「学校は連帯責任じゃないのか?」
リゼルは、わずかに笑った。
「連帯責任ですか」
一拍。
「……非効率です」
カイの足が、前に出た。
「ふざけんなよ」
一拍。
「なんで――」
言葉が、詰まる。
「……何でレインだけなんだよ」
距離を詰める。
リゼルは、動かない。
「……」
そのまま、拳を握り腕が振り上がる。
レインが、一歩踏み込んむ。
腕を掴む。
「……カイ」
カイ
「離せよっ」
レイン
「……いい」
一拍。
「それは、俺の話だ」
カイ 「そんな訳ないだろ」
一歩、踏み出す。
「俺だって――」
言葉が、止まる。
「楽しませることが、何でダメなんだ」
一拍。
「……誰も、戻ってねえだろ」
リゼルは時計を見た。
「時間は有限です」
「……業務がありますので」
振り返らずに、去っていった。
ミレアの手が、震えていた。
ぎゅっと、服の裾を掴む。
「……やだ」
小さな声。
誰にも届かないくらいの。
サリアは静かに言った。
「……大丈夫よ」
言って、ミレアの肩に手を置く。
一拍。
「……きっと」
言い切れなかった。
レインは、何も言わなかった。
ただ、リゼルが去っていった方向を見ていた。
(……ノヴァリスか)
(……普通は、行けない場所だ)
「無償」という言葉は、とても強いです。
正しいことのように見えて、
安心できる理由のように見えて、
疑う余地すらなくしてしまう。
けれど、その裏にあるものは、
いつも同じとは限りません。
この回で見えてきたのは、
ただの「ズレ」ではなく、
もっとはっきりとした“構造”です。
——それでも、レインは止まりません。
ここから先、物語はさらに深く潜っていきます
次回も読んで頂けると嬉しいです。




