31話「行き先――ノヴァリス」
今日は少しだけ、空気が違います。
いつも通りのはずの場所で、
少しずつ、何かがずれていく。
その違和感は、やがて――
はっきりとした形になります。
リゼルは、レインを見ていた。
「……あなたは興味深いですね」
「観察対象として、十分な価値があります」
子供たちがざわつく。
「え?」
リゼルは続ける。
一歩、距離を詰める。
レインの前に立つ。
指先が、首元に触れた。
「……反応、確認します」
距離が、近い。
レインの眉が動く。
「あの、」
リゼル
「脈が早くなりましたね」
ほんのわずかに、声が低い。
一瞬、観察するように見つめる。
レイン
「あの、離れて下さい」
リゼル
「失礼しました」
「通知事項があります」
リゼルは、淡々と言った。
「十三歳試験は、合格となりリベルタス行きの予定でしたが」
「行き先は――変更されました」
空気が、変わった。
掲示板の前に、人が集まっていた。
紙が貼り出されている。
サリア
「……十四歳で、発表されるのよね」
ミレアが、背伸びして覗き込む。
「……あ」
少しだけ、肩を落とした。
「……カイと私、ダメだったみたい」
カイも目を細める。
「……俺、いけると思ったんだけどな」
ミレア
「私だって」
サリアは、少しだけ明るい声で言う。
「やっぱり、孤児って優秀なのね」
「ほら、ほとんどリベルタス行き」
紙の名前をなぞる。
ミレア
「サリアは試験どうだったの?」
サリア
「私は合格したわ、でもパパの仕事が貿易商だから、行き来するって形なの、パパの仕事手伝いで、何度か行ったことあるけど……本当に素敵な国よ」
ミレアの目が、少しだけ輝く。
「いいなぁ」
カイ
「俺の兄貴は合格して、リベルタス行って、たまに帰ってくるな」
サリアは微笑む。
「大人になったら皆で、行きましょうね」
一拍。
「……その時は、ちゃんと準備して」
サリアの視線が、端に止まる。
「……あれ?」
指が、少し横にずれる。
「こっち……何か書いてある」
三人も、そちらを見る。
名前の列から、外れた場所。
そこに、別の文字。
ミレアが、息を止める。
「……え?」
カイの眉が、歪む。
「なんだ、これ……」
サリアが、ゆっくりと読む。
「……レイン・アルト」
一拍。
「行き先――ノヴァリス」
空気が、止まった。
レインは、ふと思い出す。
あの時。
人形劇の奥に、立っていた影。
(……違う)
(……あれが最初じゃない)
(もっと前から、見られていた)
ミレアが、小さく言う。
「……ノヴァリスって」
言いかけて、止まる。
カイが、小さく呟く。
「……あそこに名前が出るやつってさ」
一拍。
「……問題、起こしたやつじゃなかったか」
さらに小さく。
「……よくない噂、あるよな」
サリアは、言葉を選ぶように口を開く。
「……帰ってきた人、いないって」
「……聞いたこと、あるわ」
誰も、続きを言わなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
これまでの流れとは少し違う形で、
物語が動き始めました。
「ズレ」ではなく、
もっとはっきりした何かが見え始めています。
この先、レインがどう向き合うのか。
次回も読んで頂けると嬉しいです。




