第28話「止められた“笑い”」
森の広場に集まった子供たち。
紙芝居は、少しずつ形を変え始めていた。
“見る”だけじゃない。
“動く”ことで、生まれるものがある。
そしてその日――
初めて、それは“止められた”。
森の広場には、すでに子供たちが集まっていた。
「今日は何やるの?」
「また紙芝居?」
「ツルリマンでしょ!」
ざわざわとした声が広がる。
その中心で、ミレアが胸を張った。
「今日は違うよ!」
「もっとすごいのやるよ!」
カイは小声で言った。
「毎回ハードル上げんなよ」
子供たちの目が、きらりと光る。
レインは一歩前に出た。
箱を置く。
布をかける。
(……人が多い)
(見られてる)
一瞬だけ、手が止まる。
――だが。
「……始める」
小さく呟く。
ぱん、とサリアが手を叩いた。
「それでは――」
「はじまり、はじまりー!」
布がめくられる。
現れたのは――
ウサギ。
ぴょこん、と動く。
「フワモコだよ」
サリアがセリフを言いながら、ウサギを動かす。
「……?」
「フワモコちゃんだぁ」
「何するの?」
子供たちが首をかしげる。
ぎこちない動き。
少し遅れたタイミング。
(……やっぱり)
レインの指が、わずかに固くなる。
その時だった。
ぴょこん。
フワモコが前に出る。
「春だねぇ~」
のんびりした声。
「いいてんき~」
ぺし、ぺし。
地面を掘り始める。
「こういう日はねぇ」
ほりほり。
「いっぱい、あなをほりたくなるの」
子供
「なにしてんの?」
「すあなづくり!」
どんどん増える穴。
レイン(心の中)
(……増えてる)
フワモコ、ふと止まる。
「……あ」
穴だらけの地面を見る。
「これ、あぶないね」
一拍。
「かくそう!」
葉っぱを、ふわっと乗せる。
ぺし、ぺし。
雑。
その時だった。
「オレ、ユウシャダゼ!」
カイ
「えっ?」
「唐突過ぎじゃね?」
横から飛び出してきた。
ジョンだ。
「テキ、タオス!」
「オレ、ツヨイ」
ずかずか歩く。
一歩。
ずぼっ。
「うわぁ~!!」
一瞬。
沈黙。
子供たち
「落ちた!!」
「あははははっ!」
ジョン(穴の中)
「ワナダ!ワルモノメ!」
カイ
「お前が勝手に落ちたんだろ!!」
フワモコ
「えへへ」
にんじんをかじる。
「ちゃんと、下見て歩かないとね」
ぺろっ。
子供
「ズルい!」
「かわいいから許す!」
「ぼくはうーん、わかんない!」
笑いが広がる。
レインは、その光景を見ていた。
(……違う)
(これは)
(見てるだけじゃない)
ミレア
「敵だよー!」
昆虫のぬいぐるみを沢山並べる。
一瞬。
カイ
「……遅えし多いな」
一拍。
「今までの話の流れ見てなかったのか?」
ミレア
「いっぱいだよ!」
「たくさんいると強そう!」
カイ
「“そう”で出してくんな!」
ジョン
「オレ、ユウシャ……ワスレラレタ」
カイ
「一応勇者だったな」
「あははははっ!」
笑いが爆発する。
ミレア
「ここで王様が登場」
「あっ」
その時だった。
「……楽しそうですね」
「娯楽は禁止ではないですか?」
静かに、こちらを見ている。
一歩、踏み出す。
見知らぬ女は木彫りのツルリマンを取り上げ、
指先で、異物に触れるように確かめる。
「ですが――これは」
ミレアのセリフを遮り淡々とした声で、
ぴたりと空気を止めた。
子供たちの動きが止まる。
「……あれ?」
一人が、ぽつりと呟いた。
誰も、続きを言わない。
何人かが、同時に後ろを見る。
そこに立っていたのは――
初めて見る神官だった。
整った姿。
無駄のない動き。
——“感情が、見えない”。
一拍。
その目が、レインを捉える。
——逃がさない、というように。
「規則違反です」
一瞬だけ――
その女の口角が、わずかに上がった。
笑いは、広がるものです。
でもこの国では、それが“許される形”でなければなりません。
レインたちがやっていることは、
ただの遊びではなくなり始めています。
そして現れた“感情のない神官”。
ここから、空気は変わっていきます。
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